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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
最終章 最弱の
699/738

698 超特急で破壊される思考

 人工技術の限界を(ゆう)に超えた階段通路を下っていると、広い空間へ出る。

 見事に四角く切り取られた空間も()る事ながら、それ以上にインパクトのある巨大な物体に視線を釘付けにされてしまう。

「ンだよコレ。巨大なテント、いやコテージか」

「こんなところにコテージなんて設置してなんになるのさ」

「クミンのツッコミも理解できるけど、じゃあコレなんなのよ」

 丸味のある長方形の物体を見てワイズが推理し、クミンがぶった切り、エリスが改めて問いかける。

 わからない。なんなんだコレは。

 素材も用途も不明。壁面どころかドアにあたる部分にまで窓がズラリと設置されていて、内部が丸見えだ。

 と言っても壁面に張り付いている長く座り心地のよさそうな椅子がズラリと伸びているだけで、他には細い支柱と、天井から輪っかが何個もつり下がっているだけだ。

「コレは電車、を()した乗り物だよ。二車両編成だね。そんでもって電車専用の通路を線路って言うの。後は電車に乗っていればヴェルダネスまで一直線。私が運転するからみんなは乗ってるだけでいいよ。好きにくつろいでて」

 アクアは乗り物の先頭まで行くとドアを開けて乗り込んだ。追いかけて運転席を覗き込むと複雑そうな装置であふれている。

「アクア、こんなのを運転するのか。動かし方が欠片も想像できないんだけど」

「やだなジャス。だから私が運転するんじゃん。ほら、ドア開けるから乗って乗って」

 アクアが装置のひとつに手を(かざ)して魔力を流すと、プシューと電車のドアが全て同時に開いた。

 ボクを始め、みんな恐る恐る乗り込むとドアが閉まる。

「ご乗車誠にありがとうございまーす。次はぁヴェルダネス。ヴェルダネス。走行中の車内は揺れて大変危険ですので、乗車中は立ち上がる事がないようお願いしまーす」

「いきなり何言い出してるのよアクアは」

 エリスがアクアの近くまで歩み寄ってから問いかける。運転席とは壁で(へだ)てられているけれど、上半分の(ほとん)どが窓ガラスなのでこちらからもアクアの姿はよく見える。

「一度車内アナウンスやってみたかったんだよね。走行による衝撃は最小限に抑えられてるけど、それでも揺れるから注意してね。それじゃ、出発進行」

 アクアが魔力を流すと、電車はカタン、カタンカタンとゆっくりと動き出した。

「マジか。ホントに動いてやがる。こんな大きくて重い乗り物が。魔力だけで」

 ワイズが驚嘆(きょうたん)の声を上げる。みんなは喋らないものの、気持ちは同じだ。

 通路内の代わり映えのない景色が、流れるように動いていく。電車は徐々にスピードを上げてゆき、上げてゆき?

「ちょっと待ちな。コレどれだけ速度でてるんだい。流れる景色のスピードが尋常じゃないよ」

「軽く馬車の百倍以上は出てるんじゃないかな。電車を使えばプラサ・プレーヌからヴァッサー・ベスまで小一時間ほどで到着するし」

「はっ、ははっ。小一時間だって」

 思わず空笑いが込み上げてしまう。ボクたちがしてきた長く急いだ旅路は、一体何だったのだろう。

 カタンコトンと小気味いい走行音を聞きながら、衝撃にも満たない揺れを堪能する。

「バカげた速度のわりには揺れが少なすぎんだろぉ。こんなん、現実じゃねぇ」

 不意に景色が洞窟めいた土色から、青い世界へと変わった。

「ちょっとアクア。水の中走ってるんだけどねぇ!」

 窓の外で泳ぐ様々な魚たちを追い抜く景色に騒然(そうぜん)としてしまう。エリスじゃなくても叫んで問い詰めたくなるよ。

「落ち着いてよエリス。海の中ではあるけど、トンネル作ってあるから水の中ではないよ。いやぁ、通路作ってる際に海ぶち抜いちゃった時には焦ったね。水中トンネル作るのには苦労したけど、おかげで絶景を楽しめて最高だね」

「何やってんのよタカハシ家はぁ!」

 もう何からツッコんでいいかわからない。水中トンネル、このガラスで作られた通路の事かい。作り方もわからなければ作ろうなんて発想も湧かないよ。

「ナイ○・オ○・ファイヤー♪ タタラタタター♪」

 (しま)いには機嫌良さそうなアクアの疾走感あふれる鼻歌が聞こえてきた。なんとなくスピードの限界を超えそうで怖いんだけど。

 とりあえず、思考は停止する事にしたよ。

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