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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
最終章 最弱の
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696 影の打算

(と、言うわけだ。父さんとチェル様は無事に初体験を始めたぞ)

 すっかり暗くなった獣王城(仮)(かっこかり)の客室で私はメッセージを(かい)してグラスと会話していた。

「ようやくだね。かなり時間かかっちゃったけど、お父さんの恋が成就(じょうじゅ)して嬉しいよ」

 ジャス達にお願いして決戦日を一日延ばした甲斐(かい)があったってもんだね。おかげで私は一日暇をしてたわけだけど。

(父さんも奥手だけれど、チェル様の方がヘタってたからな。ギリギリまで心配させてくれた)

 溜め息まで漏れ聞こえてきたね。グラスも気苦労してたんだね。

「ところでさ、タイムリーなのが気になるんだけど、ひょっとしてグラスって聞き耳立ててる」

(勝手に物音を拾ってしまうだけだ。俺は耳がいいからな、同じ家で事を始めればイヤでも聞こえてしまう)

「イヤじゃないクセに」

(明日手加減しないぞ)

「機嫌がよくても手加減なんてしないクセに」

 グラスの(しか)めっ面を想像して思わず笑えてきた。もうちょっと、からかっていたい。

「じゃ、明日ね」

(フンっ)

 ありゃりゃ。ご機嫌(なな)めなになっちゃったから最後の言葉が鼻息だったよ。

「いよいよ明日、か」

 どうしようかな。

 未来の事を考えていると、コンコンコンとドアを叩かれたよ。夜遅くに誰だろう。

「はーい。開いてるよ」

「失礼しますね」

 ドアに注目してると、入ってきたのはドゥーシュだった。

「こんな遅くにごめんなさいね。お義姉(ねえ)さんに聞いておきたい事がありまして」

 馴れない呼び方をしてくれるなぁ。グラスへの想いを考えると無碍(むげ)にもできないけれども。

「別にいいけど。何、聞きたい事って」

 ドゥーシュは部屋にある椅子を移動させ、私と向かい合う形で座った。

「お義姉さんは戦いが終わったら、どうするのですか」

「んー、ノープラン。ちょうどソレ考えてたんだよね」

 戦いが終わったら私、目的も役割もなくなっちゃうから。

「そうですか。もしよろしければ、私と一緒に暮らしませんか。今は流れで獣王城(仮)に暮らしていますが、本来はプラサ・プレーヌの教会が住処(すみか)なのです。ここはジャス様のお城ですから」

「え。ドゥーシュならジャスも喜んで住まわせてくれそうだけど」

「貴族の地位に興味はありませんので。ワタシには教会で街の人々に手を差し伸べている方が性に合っています。グラスが取り戻してくれた生き方でもありますから」

 微笑みに込められているのは本心なんだろうけど、グラスへの慈愛もシッカリと混じってるね。

「んー、気持ちは嬉しいんだけど、ジャスが住んでいる街に居座(いすわ)るのは気が引けるんだよね」

「それは、お義姉さんがタカハシ家だからですか。大丈夫ですよ。今や立派な仲間なのですから。エリスさんの事、大切なのでしょう」

 半分正解で、半分的外れかな。自分でもよくわかってないけれど。

「私が途中からジャス達についたのは確かにエリスを失いたくないって気持ちもあったよ。けどもう半分、タカハシ家としての打算(ださん)もあったんだよね」

 打算については私も最初は気付いてなかった。後になってから、シェイに(たく)されてたんだって気付いた。

「私が手伝わなかったら、ジャス達はタカハシ家に勝てなかった。勇者が勝たないと、お父さんは望みを叶えられない。お父さんの望みは、私達八兄弟全員の望みだから。だから」

 シェイは私を傍観者(ぼうかんしゃ)から勇者パーティへと鞍替(くらが)えさせた。私が心を突き動かされる形で。

「ではお義姉さんは、ジャス様を裏切られるのですか」

 (とが)めてきてもおかしくない状況で、ドゥーシュはただ疑問を口にした。ただ気になっているだけといった感じだね。

「裏切るつもりはないよ。ちゃんと勇者として、人間魔王であるお父さんを無事に討伐してくれるなら、何の問題もないもん」

 ただ事が終わったら私は用済みなわけで、未来(さき)なんてなんにも見えないんだよね。いっそ、グラスと刺し違えでも狙ってみようかな。

「ならひとつお願いです。どうか自ら命を捨てる事だけはないよう。エリスの、ワタシのお腹の子も悲しみますから」

 痛いなぁ。無視するには存在が大きすぎるんだもん。

「わかったよ。戦いが終わったらヴァッサー・ベスの海上にでも戻ろうかな。私の侵略地だったんだけど、住み心地よかったもん」

「遠いですね。たまには遊びに来て下さいね。ワタシもジャス様も忙しい身になりますから。では、失礼しますね。おやすみなさい、お義姉さん」

 言いたい事だけ言って出て行っちゃったね。

 んー、うだうだ考えてないで寝ちゃお。

 考え事なんて、明日を終えてからでいいんだから。

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