687 夢
ドゥーシュに勧められるまま獣王城(仮)へと案内される。本当は様と付けて敬うべき女神なんだけど、どうも途中からそんな気にならなくなったのよね。
気さくさを見いだしちゃったせいかな。まぁいいや。
城内は品のよい彫刻やシンプルな武器類で飾られていて上品だったわ。絶対魔王グラスの嗜好が影響されてるけれども。
ただ反面人がいないから、がらんどうとした寂しげな雰囲気も醸し出していたわ。
昨日までは魔王グラスを中心に、獣たちで賑わってたってドゥーシュが教えてくれた。名残として廊下の所々に獣の毛が落ちてもいたわ。
ドゥーシュも普段は城の一室で寝泊まりしていたようよ。
夕食は厨房を確認したアクアが残っているものでテキトーに料理を作ってくれたわ。アタシも訳がわからないなりに手伝ったわよ。ラーメンなんて料理、初めてだったもの。
とても美味しかったけど、キレイに食べるのが難しかったわね。なんでアクアは棒二本を器用に使って食べれるのかしら。またアクアのナゾ料理レパートリーを知る事になったわ。
で大きな浴場もあったから贅沢に湯浴みもさせてもらって、それぞれに宛がわれた部屋に案内されて寛ぐ事になったんだけど、まだドゥーシュから肝心な事を聞いてなかったわ。
眠ってしまう前に広すぎる個室を出たわ。
ドアの前に立ち、コンコンコンとノックをする。
「ドゥーシュ、まだ起きてる」
「エリスさんですか。少しお待ちください」
中から物音が聞こえ、静かにドアが開かれる。
「悪いわね、わざわざ出向かせちゃって」
「構いませんよ。何か気になる事があるのでしょう。どうぞお入りください。お茶の用意もできないのが心苦しいのですけどね」
微笑みながら部屋へと招き入れ、椅子を引いて促してくれたわ。アタシが座ると、ドゥーシュが向かいに座ったわ。
「で、何をお聞きになりたいのですか」
「部屋まで押しかけて興味本位な事で悪いけど、まだどうして魔王グラスを好きになったのか聞いてなかったのよね」
いろんな話に移り変わって結局ソコが聞けてなかった。いや有益な話ばっかだったからムダとも思わないけども。
「そういえば言っていませんでしたね。最初の問いだというのに失念していました。色々とあるのですが、そうですね、ワタシが望んだプラサ・プレーヌを見せてくれたからでしょうかね」
ドゥーシュは悩みながら、首を傾げて答えを出した。自分で言っておいてまだシックリきていない感じね。
「侵略者だからと悪ぶっているわりに周囲を気遣ってしまう無骨な優しさがかわいくもありました。残虐な魔王を名乗りながら部下の獣たちに慕われて、空回りしている姿に親しみを覚えました。冷たくあろうとしつつも温かみを隠しきれていない面も微笑ましかったです」
「聞いてて恥ずかしいくらいのベタ褒めね」
本当に褒めてるわよね。間違っても貶してないわよね。
「たくさんの情に囲まれているというのにグラスは、信念に囚われて孤高になろうとしていました。たとえ死んでも誰からも悲しまれないようにと。とても寂しい考え方ではないですか」
タカハシ家はコレだから。アクアだってそうだし、他の連中だって似たようなもんだった。最たる例は、たぶんデッドだ。
「失望していたワタシを救ってくれました。たくさんの人から慕われてきました。だからこそ、グラスにはたくさんの人のぬくもりに触れる権利が当然のようにあるんだって教えてあげたかったのです。色恋という熱だって、人を突き動かす原動力になるのですから」
「ドゥーシュって意外と熱いのね。羨ましいわ」
「まぁ、意固地になっているグラスをからかうのも楽しんでたんですけどね。マジメな堅物だから反応が大袈裟で」
クスクスと笑う姿は魔性に満ち溢れていたわ。
「エリスさんも、アクアさんに惹かれたのでしょう。彼らは、一時に見る夢のように輝かしく、そして儚い存在ですもの。覚めたら終わってしまう夢に、続きを用意したっていいじゃありませんか」
夢の続き、ね。終わりが避けられないのならばせめて、続きを作るか。そんなの、アタシはまっぴらごめんだわ。
「決めた。アタシは今見ている夢をずっと離さないから。だから、何が何でもみんなで生きて帰ってくる」
「ぜひ、掴んだまま離さないでくださいね。アクアさんがエリスさんにとって、覚めない夢であらん事を願っています」
ありがとドゥーシュ。アタシ、覚悟が決まったからね。




