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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第11章 堅物のグラス
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681 最後の役目

「えっ、ちょっとグラス。本気で逃げるの。そりゃ双剣は折れちゃったけどさ、まだまだこれからじゃん」

 アクアが驚いて立ち上がりながら言葉をまくし立て、背を向ける魔王グラスを呼び止める。

「ブレイブ・ブレイドこそ防ぎきったが俺も武器を失った。女神の横槍(よこやり)でダメージの優位もなくなり、今や多勢に無勢。一度引いて新たな武器を(こしら)える方が()(かな)っていよう」

「だからって、戦いから逃げるなんてあまりにもグラスらしくないよ」

 もっともな意見に聞こえるけども、アクアは納得できないようだ。どうにかして戦いを再開させようと言葉を(つむ)ぐ。

 アクアの気持ちもわからなくはないけれど、ボクは戦うべきか剣を収めるべきか判断がつかなかった。

 あの恐ろしい双剣を破壊できた事とドゥーシュのおかげでみんな全回復できた事。状況だけ考えると有利にも見える。けどブレイブ・ブレイドを使い切った事を視野に入れると強気になるのも危険を感じる。

 引いてくれのはむしろ、ボクらにとって好都合なのではないだろうか。少なくとも、ドゥーシュは巻き込まずにすむから。

 心で弱腰に鳴りながらタカハシ兄弟の動向を見守っていると、魔王グラスが振り向いて重い溜め息を吐き出した。

「よくよく考えてみろアクア。俺がここで戦死したとしよう。そしたら最後に残るのは誰だ」

「えっ、そんなの。あっ!」

 ん、何だこの問答(もんどう)。アクアは何に気付いた。

「そうだ。父さんしか残らなくなるだろう。本当は任せてもいいのかもしれないけれど、魔王城の守り手が一人もいないのはさすがに味気ないだろう。そもそも、誰が父さんを側で守るんだ」

 そういやいたな。自称魔王のおっさんが。

「考えてなかった」

「そりゃアクアは一番手だったからな。順番が早ければ俺も考えなかったさ。でも大トリに回って気付いた。父さんを側で守るのは、一番最後の選ばれた者の役目なんだと」

「あー、そう考えると逃げの一択だよね。私だって大トリの立場だったらテキトーに切り上げて逃げるもん」

 アクアでも逃げを迷わず選択するのか。というかテキトーって。もしその言葉が適当であったとするなら、魔王グラスの実力は空恐ろしい事になるんだけど。

 ふと魔王城アクアリウムでの気迫を思い出す。負けて逃げるなんて視野にすら入れなかったあのアクアでも逃げが確定になるのか。

「というわけだ。俺は魔王城タカハシにて待つ。今度こそ茶番はなしだ、命懸けで乗り込んでこい。地下鉄は開通したままにしておいてやる」

 あの、ちょっと。その魔王城の名前、もうちょっとどうにかならなかったのかい。いやまぁストレートでわかりやすい名称ではあるのかもしれないけれど、でもな。

「うん。電車で行くよ。ヴェルダネスって地下鉄以外で行くには骨が折れるからね」

 ボクたちもタカハシ家が使っていたナゾの移動手段を使わせてもらえるのか。

 気がつけば重苦しい空気感は緩和されていて、リラックスした雰囲気まで(かも)し出されている。

 死闘(しとう)、していたはずなんだけどな。

 魔王グラスが今度こそ悠々と背を向けて歩き出した。

 攻撃すれば通りそうなものの、藪蛇(やぶへび)になりそうなので見守る。

 ドゥーシュの横を通り過ぎる際、一度足を止めて顔を合わせた。

「魔王、グラス」

「命拾いしたな女。だが、もう次はないぞ」

 ドゥーシュの呟きを睨みで返しながら魔王グラスは言い捨てて歩き出した。

 ゆっくりと大きな背中が遠ざかってゆき、見えなくなってからたっぷりと時間をおいてからジワジワを実感する。

 終わった。ひとまずだけども、戦いが。やりきれない脱力感だけが残っていたよ。

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