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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第11章 堅物のグラス
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677 回避も防御も

「兄弟でじゃれ合ってるとこ悪いけど、アタシも出しゃばらせてもらうから」

 エリスが回り込みながら矢を放つ。大声を上げ、目立って注目を集めるかのようだ。

「真剣勝負の最中(さいちゅう)だ。存分に出しゃばってもらおう」

 魔王グラスは右の剣一本で全ての矢を(さば)きながらエリスへ駆ける。

「して、今度は何を狙っている。もっと俺に見せつけてみせろっ!」

「さっきとやる事変わんないわよ。アタシが引きつけて、アクアが勝負を決める。それだけよ」

 魔王グラスの後ろに回り込んだアクアが、腰を低く落としてトライデントを構えた。

「カジキっ!」

 足に溜めた力で地面を蹴り、無防備な背中へ急速突進の槍を放つ。

 傷口から鮮血を吹き出し、軌跡を地面に残しながらの渾身。

「はぁぁぁぁぁあっ!」

「凄まじい信頼だな。一歩間違えばそのまま仲間へ攻撃してしまう位置取りだというのに。しかしそれでも、ぬるいっ!」

 左の剣で防御を選択し、カジキを剣の腹で受け止める。けども勢いは止まらない。

 防御に(てっ)している魔王グラスを、アクアが突き動かしている。

「エリスっ!」

「わかってる。けどこいつ、アクアのカジキを受け止めてる(さだ)かだってのに、全然矢を斬り落とす剣がブレない」

「悪いが時間切れだ。アクアのカジキの突進力だけでも、その身に受けてもらおう」

「あぁぁぁぁあっ!」

 カジキに押される勢いを、魔王グラスはエリスへ肩で伝えて吹き飛ばす。

「ぐっ」

「さて、そろそろ勢いを止めねばな!」

 エリスを吹き飛ばした所で地面を踏み抜き急停止をする。アクアの身体が衝撃に堪えられず、傷口から更に血が噴き出した。

「ぐぁ、あぁ。カジキの勢いを利用してたんだね」

「せっかくなので、な。アクアも力を引き出せるよう噴水を用意したのだから、もっと利用をすべきだったな」

 左の剣を強引に振り払うとアクアが吹き飛ばされた。地面を転がり、()いつくばる。

「まっ、まだ。私は」

「少し寝てろ。すぐに勇者を隣に運んでやる」

 視線をボクに向けると迷わず走り出した。今度こそボクの番だ。

「遠慮させてもらうよ。昼寝なら、兄弟水入らずでするといいさ」

 歯を食いしばってハッタリをかます。魔王グラスを倒して地面へ寝かせるビジョンなんてこれっぽっちも見えない。けども、引くわけにはいかない。

 接近がてらに振られる右の剣を躱すと、それだけで身体が風圧に(さら)される。

「うおっ」

 速いし、避けてコレか。マズいっ。

 体勢が崩れているところに左の剣が迫ってくる。剣を盾がわりに突き出して受ける。

 ガツンとくる重い衝撃。剣撃を受けたソレでは断じてない。転がり落ちる岩に当たったかのような衝撃に両手が痺れ、剣諸共(もろとも)吹き飛ばされた。

 打ち付けられるように地面を転がり、止まったところでボクの剣も側に転がり落ちてくる。

 回避も防御も役に立たないなんて。

「ジャス様、そんな」

 遠くで戦いの行く末を見守っていたドゥーシュが小さく動揺する。

「おい女。助けたいなら回復魔法を使ってもいいんだぞ。少しでも仕草を見せた瞬間、敵と見なして遅いかるがな」

「うっ」

 息を呑み身体を硬直させるドゥーシュ。

 ダメだ、貧弱なドゥーシュが魔王グラスの攻撃に曝されたら堪えようがない。一撃で命を(ほうむ)り去られてしまう。

 ボクは震えて力の入らない手に、むりやり力を込めるのだった。

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