674 気迫
「脳筋は褒め言葉じゃないからっ!」
アクアが跳躍をし、トライデントを下に向けて魔王グラスへ落下する。
「侮蔑をひっくり返せずに何が長所か。愚直を昇華させしパワーに死角などはない!」
急襲突きを右の剣一本で払い除け、アクアを宙へ弾き返す。
「タイマンだったらそうかもね」
「けどアタシ達はチームなのよ。死角なんていくらでも生み出してあげるわ」
エリスが魔王グラスの背に回り込みながら矢を乱射した。
「ほぉ、敢えて攻撃を乱れさせる事で本命を見抜きにくくするか。若いのに大した胆力だ」
「黙れ七歳児。見下すなら本命を捌ききってからにしなさい」
左の剣で的確に命中する矢を叩き落としている横っ腹へ、アクアが急接近からのダッシュ突きを放つ。
「行けっ、本命」
「はぁぁぁぁあっ!」
「ふんっ!」
伸ばされたトライデントは、右の剣から織りなす不動の突きに合わされ止められる。左の剣は忙しなく矢を迎撃しながらだ。
あの二人の連携ですら、魔王グラスの防御を崩せないのか。
「矢の中を掻い潜りながら切り込んでくるとは、味方を頼る戦いが上手くなったなアクア」
「おあいにく様。私とエリスのコンビネーションはこんなもんじゃないから」
硬直していたトライデントを水に戻し魔王グラスのバランスを崩しにかかる、と同時に新たにトライデントを精製して自ら攻めの起点を作ろうと画策した。
「ねぇグラス、互いに力を押し付け合ってた拠り所を消滅させたんだよ。普通は体勢崩れるでしょ」
「備えがなければな。その程度の騙し討ちなら想像するに容易いわっ!」
「わぁぁぁぁぁあっ!」
攻めに転じようと一歩踏み出していたアクアへ、右の剣が振り上げられる。トライデントを横に持ち防御をするも、あまりの勢いで吹き飛ばされた。
「アタシの矢を捌きながらアクアを簡単に退けた。どこまでバケモノなのよ。魔法で属性付与してる矢だって斬ってるはずなのにビクともしないなんて」
「付与程度、魔法そのものを斬るより容易だろう」
言われてしまえば納得せざるを得ない。
「まだまだっ。はぁぁぁぁあっ!」
地面を転がりながら立ち上がったアクアは、再三トライデントでの突きを仕掛ける。
「いいだろう。一度や二度で怯えられてはつまらん。何度でもかかってこい」
「ゲリラ槍雨っ!」
魔王グラスの正面からトライデントを突き出しながら、背面にある噴水から無数の槍を精製して奇襲を図った。
イケる。いくらなんでもコレは捌きようがない。
オマケにエリスの放つ矢も横から乱射されている状態だ。
「はぁっ!」
魔王グラスが力強く踏ん張って気迫を放つと、背後から迫るトライデントも、横から乱射される矢も、正面から突きを放つアクア本人もまとめて吹き飛ばした。
「あぁっ!」
「ちょっと、そんなのあり」
矢を射る手を止めて呆然とエリスが呟く。
全方向に隙がない。こんなの、どうやって戦えばいいんだ。




