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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第11章 堅物のグラス
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671 待ち侘びていた闘争本能

 魔王城へ向かって馬車を走らせている間。街中から敵視する視線が飛ばされていた。

 いたたまれなく思いつつも、黙って魔王グラスの下へ進んでいく。

 立派な白の城壁に堅牢(けんろう)さとデザイン性を(あわ)せ持つ門まで辿り着いたところで、ボクたちは馬車を止める。

「ここが、グラスの魔王城だと。まるで、普通のお城じゃないか」

 普通と言うには豪華(ごうか)で大きすぎ、庭の植物が丁寧に剪定(せんてい)されていて広々としているけれども。戦いの舞台にするには違和感を覚えさせられる。

 殺伐とした魔王感がこの城には存在しないんだ。

 けど不釣り合いな闘気は感じられる。隠そうとしないどころか、まざまざと魅せつけるような闘争心が。

「休憩タイムは、終了のようだな」

「正直、街で住民に囲まれた時にも飛び出そうかと思ったけどねえ」

 ワイズとクミンが馬車から出てきた。二人とも戦うには支障がなさそうだ。顔に笑みを浮かべ、汗を垂らしている。

「あの、オレ達は」

 一人の精鋭が馬車の中から覗きながら訪ねてきた。

「この付近で馬車を守りながら待機をしてほしい。これより先に君たちを連れていくわけにはいかないからね」

「オレ達だって最後まで戦えます。と、言いたいところですが、待機していた方がよさそうですね」

「オレ達でも魔王グラスの圧倒的な気配を感じられますから。身体の震えが止まらないです。すみません」

「君たちはよく頑張った。後は、ボクたち勇者の戦いだ。行こう、みんな」

「ご武運(ぶうん)を」

 精鋭達が見守る馬車を背に、ボクはワイズ、クミン、エリス、そしてアクアと共に魔王城の敷地内へと足を踏み入れた。

 整えられた石畳の道はゆがみなく真っ平らに続いていて、花壇(かだん)の草花も瑞々(みずみず)しく上品さを(うかが)える。

 明らかに人の手が加えられているというのに、人っ子一人いない環境。

 平和な景色に対して待ち受ける存在感の大きさ。一歩踏み出すごとに緊張で汗が噴き出してくる。

 思い出せば、二年前も同じ場所で違った景色を進行していたっけ。魔王アスモデウスが待ち受けていた魔王城と、この魔王城は同じ場所にあるんだ。

 まだ姿を見てもいないのに、手に力が入ってしまう。

「ったく、まだ庭だっていうのに随分と広いじゃないの。お城までまだ遠いし、魔王グラスは何を考えてるのよ」

 エリスが苛立(いらだ)った声を上げながら、周囲をキョロキョロ見渡して歩く。

「たぶんね、負けた後の事を考えてると思うよ。だからこのお城は、ムダに広くなっちゃったんだと思うな」

 アクアが思考を巡らせながら応えた。

 タカハシ家ならではの思考なのだろう、いくら考えても、ボクたちにはわからないのかもしれない。

 進んでいると水の音が聞こえてきた。噴水(ふんすい)だ。かなり大きい。中心にある美しい彫刻(ちょうこく)から全方向へ均等(きんとう)に噴射される水は、弧を描いて涼しげな空間を作り出している。

 そんな眺めているだけでリラックスできる噴水の手前に、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の少年が剣呑(けんのん)な眼差しをして腕を組みながら待ち構えていた。

「来たか」

「グラス」

 魔王グラスの呟きに、アクアが反応する。

 猛々(たけだけ)しい金色の短い髪に茶色のつり目。身体にピッタリひっついているような黒いシャツにカーゴパンツ姿。魔王グラスは組んでいた腕を解くと、噴水に立てかけてあった二本の無骨なロングソードを両手に握った。

「俺はグラス。グラス・タカハシだ。この瞬間を、ずっと待ち()びていた」

 右の剣をボクたちに突きつけながらの宣戦布告(せんせんふこく)

 始まる。もうよ余計な前口上(まえこうじょう)なんてない。ボクたちは各々の武器を構え、静かに対峙(たいじ)をしたのだった。

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