665 カウンター
三匹まで増えたギンは、それぞれ別の方向に走って攪乱を開始する。
「くっ、ワイズは右、クミンは左を警戒してくれ。ボクが正面を受け持つ」
三匹ならまだボクたちの目の方が多い。いくら素早いからってそう易々とは見落とさない。
「芸がないわね。そんな単純な手段で、ワタシを封じれるわけないじゃない」
ギンが言うや、ボクが注目していた一匹が銀光と化して消えた。
偽物か。イヤにネタばらしが速いけれど、ひょっとしたら分身体はあまり長く保てないのかも。なっ。
視線を移さずに考えていると、消えた少し後方から銀光が発生しだしてギンの駆ける姿が現れる。
「妙な手品をしてくれるねえ。一回消えておいてまた出てくるなんて」
「けどソレが何だって、おい、まさか全ヶ所でソレが起こってねぇだろぉなぁ!」
ワイズの気づきにハっとさせられる。散けた全てのギンが一回消えては再び現れた事になる。
つまりこの現象、ギンは偽物だけでなく本体でも惑わす事が可能。
「サービスはこんなところでいいかしら。そろそろ攻めるから、せいぜい楽しい反応をしてみせなさい」
ギンの余裕ぶった宣言と同時に、全匹がボクたちに向かって迫ってきた。
ボクが注意していたギンは最初の攻撃同様、遠くから跳躍して回転しながら突っ込んでくる。
「ジグザグに走って狙いを付けづらくする魂胆かよ。上等だっ!」
「まっすぐ真っ向勝負かい。なかなか肝が据わってるじゃないかい」
ワイズとクミンに迫るギンは、それぞれ別の戦術を用いて迫ってきているようだ。
いくら出たり消えたりで翻弄しようとも、最終的な攻撃手段は接近による物理攻撃だ。タイミングさえ合わせられれば、斬れる。
ギリギリまで引きつけてからのカウンター。確かにギンは速いさ。けれど、それ以上にデタラメな速さの敵とボクたちは戦ってきたんだ。この程度なら、タイミングは合わせられる。
神経を研ぎ澄まし、集中する事でギンの接近を見極めようとした。
本当にそうか?
直感とでも言うのだろうか。湧き上がった疑問がボクに防御を選択させる。剣の腹をギンに突き出し、両手で支えた。
「見切った。ソコだぁ!」
「今だねっ!」
ワイズとクミンがカウンターを放ったようだ。
ボクも回転アタックに備えて力を入れた。接触すると思った瞬間、銀光を放ってギンが消えた。
「何っ!」
ボクの反射的に上がった声は、クミンとワイズの声と重なっていた。どうやら二人の方のギンも消えたらしい。
そしてワンテンポ遅れ、消えた所にギンが再び現れた。攻撃していた勢いを伴って。
正面からの時間差攻撃。
「ぐっ!」
防御を固めるタイミングこそズラされたものの、体勢自体は崩されていなかったのでどうにか防御に成功した。
「うわぁぁぁあっ!」
「ちぃぃぃいっ!」
対して攻撃を外され、硬直直後の隙を突かれたワイズは右腕を噛みつかれた。
クミンは大振りの勢いに身体を任せる事でわざと体勢を崩し、致命傷のかっ裂き攻撃をどうにか深手で済ませたようだ。
「ワイズっ!」
エリスの矢がワイズに噛みついているギンへ迫るも、銀光を放って一瞬消えてしまう。攻撃をやり過ごしたところで、ワイズに噛みついた状態のギンが姿を現した。
「おっ、おぉぉぉぉぉおっ!」
腕を噛み千切る勢いのギンに、ワイズの悲鳴が森を木霊したのだった。




