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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第11章 堅物のグラス
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663 不意の一撃

 とにかくクロだ。クロのデタラメな遠距離攻撃を止めなければボクたちに勝ち目はない。

 一番近いクミンは、ダメだ。近かった分、獣共からの接近も早く乱戦を一人で()け負っている。

 ワイズに魔法をぶっ放してもらうにも、溜めに入る猶予(ゆうよ)を生み出せない。

 かといってボクも接近する余裕がない。いざ進もうと足を踏み出すと横からシロが必殺級の妨害を仕掛けてくる。じり貧だ。

 倒木に限りがあるからなくなるまで()えるのって手もあるけど、現実的じゃない。倒木がなくなる前に被害が出てしまう事は目に見えている。

 けど、どうすれば。

「遠距離攻撃ってのはね、デカくて強けりゃいいって訳でもないのよ!」

 エリスが弓を構えながら跳躍(ちょうやく)し、教えてやるように大声で叫んだ。

「ムチャだ、エリス!」

 確かに高くへ跳べば一時的に射線から逃れる事はできる。けども滞空している瞬間は無防備。狙われたら逃げる術はない。

威勢(いせい)がいいのは結構だが、その小っこい矢で倒木に立ち向かうには無謀(むぼう)だなっ!」

 クロがここぞとばかりに角度をエリスへと調整し、倒木を投げつけた。

 豪速で接近する倒木、とても矢では相殺しきれない。数本矢が表面に突き刺さるのが関の山だ。相殺するには最低でも、同重量の何かをぶつけなければならない。

 けれど滞空するエリスに、そんな物を用意する手段はない。

「知ってる。空中移動って、なりふり構わなければ意外と手段は多いのよ」

 エリスは爆風を纏った矢を地面へ放つ事で、地面へと突き刺さった際に瞬発的な暴風を発動させた。

 身体を風に煽られたエリスは、滞空位置と時間を強引に引き延ばし移動させた。

 クロが投げた倒木はエリスを捉える事なく、勢いのまま地平線の彼方へと消えていく。

「ワイズっ!」

「わかってらぁ。エアブラストぉ!」

 エリスが軌道を上へズラして稼いでくれた一本分の攻撃時間に、ワイズが応えてクロへ風魔法を放つ。

「おいおい、固定砲台だと勘違いしてないか。逃げる事だってできるんだぞ」

「逃がすかっ」

 逃げようとするクロの足下にエリスから疾風の矢が放たれる。

「ぬっ、ちょこざいな。回避が間に合わぬなら受けるまでよっ!」

 クロは両手を組んで腰を落とした。腹筋に力を溜めているのがわかるほど筋肉が膨れ上がる。

「魔法を筋肉で受ける気かよ。上等だ、耐えれるモンなら耐えてみやがれっ。オレだって一発で終わらすつもりはねぇけどよぉ!」

 ワイズはクロが一撃目を耐えると見据えて、連射しようと杖を構える。

「ボクの事忘れてない。やらせないよ」

「シロこそ、相手がワイズ一人だと思い込んでないかい」

 シロがワイズへ標的を定め、蹴りかかろうしたところへボクが割って入った。剣こそ避けられてしまったものの、妨害の阻止には成功する。

「くっ、接近戦がダメなら風魔法で」

「悪ぃが手遅れだ。フリーぃぃぃズ!」

 ワイズが二射目に放ったのは対象を凍らせて動けなくする氷魔法。風魔法に堪えるため踏ん張っているクロに、避ける術はない。

「おっ、おぉぉぉぉぉおっ。こんな氷ぃ!」

 風魔法を耐え抜いたはいいものの、周囲の地面ごと身体をクロは凍てついた。しかし拘束を力尽くで解こうと力を入れ、氷がミシミシと音を立て始める。

「ワイズの氷を強引に砕くパワーは大したもんだよ。時間があれば拘束は解けてただろうね」

 獣共をあらかた蹴散らしたクミンが、残りを(ほう)ってクロへと跳び込んだ。

「うぉ、うおぉぉぉぉぉおsつ!」

「悪いけど、ワシもソコまで遅くないんでねっ!」

 振り下ろされる大剣が、クロの身体を深々と袈裟斬(けさぎ)りにした。

「おっ、おっ。ダンナ、すまねぇ」

「クロっ!」

 言葉を残し、膝から崩れ落ちるクロ。

 凄い信念だったけど、ボクたちだって負けられないんだ。

「強いとは思ってたけどここまでとはね。アクア様を実力で戦場に引きずり出すぐらいはするつもりだったけど、こうなったら一人でも多く敵を倒してやる」

 一匹になり、本気とばかりにスピードを上げてシロが木々を跳ね飛び出す。

「アンタは調子に乗りすぎ、いい加減止まりなさいっ!」

 シロの動きを捉えたとばかりにエリスが矢を放つ。タイミングはピッタリだったけれど、空を蹴る事で回避をされてしまう。

「へへーん。いくら鋭くても、警戒してれば平気で避けられるもん、えっ?」

 シロの動きが少し緩んだところに、エリスがいない方から矢が飛んできた。無警戒だった一撃が首元に深々と刺さり、身体を硬直させた。

 隙を逃さぬよう、エリスが矢を連射しシロの命を射止める。

 矢の飛んできた先を見ると、精鋭の一人が弓を構えていた。

「はっ。ははっ。どうだ。オレ達だって戦えるんだっ!」

 強敵に打ち勝ったと実感したのか、声を上げる弓の精鋭。ボクたちも微笑ましくて一息ついた。

 瞬間、銀線が弓の精鋭の喉元を通り過ぎた。

「えっ、あっ」

 一瞬で喉元を切り裂かれ、倒れる精鋭。その側で、毛並みの艶やかな銀狼がボクたちを睨み付けていた。

「隙だらけだからつい、喉元をかっ裂いちゃったわ。でも、昨今の男共は情けないわね。ワタシが到着しない間に全滅しちゃうんだもの」

 四匹目の上位種。冷ややかな鋭い眼光が、強者の雰囲気を醸し出していた。

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