662 白黒
「ほぉ、今の攻撃を受けてダメージがその程度か。やはり大物は一筋縄ではいかんか」
クロが立ち上がるクミンを眺めながらニヤリと笑みを浮かべた。
「ワシらを舐め腐らないでくれるかい。今いるメンバーはね、アクアもひっくるめて全員仲間なんだよ。下っ端なんて一人もいやしないんだ!」
クミンが大剣を構えて駆けだそうとしたところに、空から風圧弾が襲いかかる。横跳びに回避してから舌打ちが鳴った。
「ちっ、白ウサギが」
「やるぅ。ボクの事なんて忘れてると思ったのになぁ。シッカリ警戒してくれてる」
シロがクロの側に着地をすると周囲から羊やヒョウ、サイといった獣たちがゾロゾロと集まってきた。
「ちぃ、第二陣の登場かよ」
「厄介だねワイズ。けど、敵が立ち塞がるなら倒していくだけだ」
気怠げに毒突いたワイズを諫めながら、ボクは剣を構え直した。クロはクミンを吹き飛ばすほどのパワーに瞬発力も持っている。
接近戦は危険そうだけれど、キーのような無差別広範囲攻撃はしてこないだろう。ならばボクが引きつけられる。
「みんなはシロクロに警戒しながら他の獣共を相手しなさい。何が飛んでくるかわからないから気を抜くんじゃないわよ」
「おぉぉぉおっ!」
エリスの号令に、精鋭達が雄叫びを上げて気を引き締め直した。もうこれ以上、被害を増やしてなるものか。
一瞬たりとも視線を切らさぬよう注目していると、クロが周囲を見渡した。
「ほぉ。キーはなかなか趣のある置き土産を残してくれたじゃないか。折角だ、使ってやろう」
クロは地面に突き刺さっている倒木を引っこ抜くと、ボク達に向かって遠投してきた。
「なっ!」
豪速で飛来する倒木。辛うじて躱しはしたけど、すれ違った際の風圧が凄まじかった。標的を失った倒木は生えている木に激突すると、双方とも轟音を立てて砕け散る。
「なんっつぅパワーバカだよっ!」
あまりの威力にワイズが悲鳴のような言葉を吐き捨てる。あんなの食らったら、一溜まりもない。
クロの一撃はキーと違って、狙いを定めているから脅威度が凄まじい。
「倒木は持ったかクロ、派手にやっちゃえ!」
「シロはそれ、言いたいだけだろ。文句は言いつつも投げつけるがなぁ!」
クロは一投目で感覚を掴んだようで、二投目以降からは拾っては投げての連続攻撃を仕掛けてくる。
「みんな逃げに徹しなさい。下手に物陰に隠れたら障害物ごと吹き飛ばされるわよ」
ボクたちだってその場で避けるのに必死な状態だ。精鋭達に逃げるなと言う方が非情なほどだ。だから、クモの子を散らすような状態に文句はない。
「くそっ、どうにか接近してクロを止めないと」
「そんな、余裕あるのかな」
打開策がないか模索しようとしていたところに、陽気な声が飛来してきた。いや、シロが飛来する倒木の上に乗ってきている。
「ウソだろっ!」
「ボクだけじゃないよ。倒木に紛れながら獣たちも押しよてるんだからっ、ねっ!」
放たれる跳び蹴りはどうにか躱せたけれど、シロからの攻撃方向が増えたのは脅威でしかなかった。
コイツら、どうペアを組んでも強いっ。




