661 首
「きたきた。ボクももっと凄いキックを魅せつけちゃうぞ」
「アンタは臆病に逃げ惑ってなさいよね」
襲い来る木々の雨に向かって跳び込むシロへ、エリスが矢を放って牽制する。
「おっと、やるね。けど弓矢だけでボクを捉えれるとは思わないでね」
「思っちゃないわよ。ワイズ、今の内っ!」
「任せろっ。クリエイトアイス!」
エリスがシロを攻撃し続けて反撃する余裕をなくしている内に、ワイズがクモの巣状に張った氷で木々の雨を防いだ。
「ほぉ、やるじゃないか。しかしいつまでシロを縫い止めていられるかな」
キーが挑発的に称賛しつつ、次の攻撃を準備するため長い首を振るって木々を倒し始める。
「図に乗ってんじゃねぇぞ。お返しだっ!」
ワイズが風圧弾を凍れるクモの巣に発射。砕く衝撃で絡むように張り付いていた木々を、キーへ向かって降らせる。
「返品は受け付けていないのだがね。このぉ!」
キーもやむを得ないと、溜まりきっていない木々で相殺にかかる。
ワイズの勢いが乗っている木々に対し。キーの木々は発射間際。数に加え重力の差もあって、キーは木々の雨に打たれる事になる。
「おわぁぁぁぁぁあっ!」
「キーっ!」
上がる砂埃を見てシロが叫ぶ。
モウモウとしていた砂は風に飛ばされて視界を鮮明にしていく。地面に突き刺さったり折れ曲がって落ちている木々の中で、赤く染まりながらもキーは堂々と立っていた。
「この程度で、ヤられるタマではないがっ、こう一方的にヤられると頭にくるね」
フーフーと息を荒げながら睨み付けてくる。怒り浸透なのだろう。
「ふざけるなっ。一方的な蹂躙をしてきたのはそっちがさきだろうがぁ!」
「なっ!」
いつのまにかキーへ近付いていた精鋭の一人に、ボクは思わず声を上げた。気持ちはわかるがムチャだ。
「相手は虫の息よ。決めてしまいなさい」
「うおぉぉぉぉぉおっ!」
エリスの後押しを受けて精鋭の一人が剣を手に跳びかかった。
「このキーを舐めるなっ。ザコにくれてやる首ではないわっ」
しかしキーがリーチの長い首を振るう事で、精鋭はあえなく吹き飛ばされてしまう。
「がっ、あっ。アクアさん。ごめっ……」
背中から木に打ち付けられて地面に倒れた精鋭は、握っていた剣を落として動かなくなった。
「くっ、ちぃぃ!」
エリスが歯を食いしばって悔しげな舌打ちを放つ。
「どうだっ。この自慢の首の威力は。直々に受けた事をあの世で誇るんだなっ!」
「せっかく彼は勇気を振り絞ったんだ。土産ぐらい持たせるのが優しさってもんじゃないかい!」
一人ヤって溜飲を下げていたキーの後ろから、大剣を振りながらクミンが跳びかかる。
「なっ、いつの間に。うおぉぉぉぉおっ!」
キーが驚きながらも反射的に首を振ってクミンを迎撃しようとする。
「ワシの大剣も、獣に打ち負けるほど貧弱じゃないんだよっ!」
真正面からぶつかる大剣と長い首。大剣に負ける道理はなく、キー首は跳ね飛んだ。
「まず一匹。次は空跳ぶウサギだね」
「おいおい、獣のフィールドは地上だというのに空ばかり見るのはどうかと思うぞ」
「何っ」
突如聞こえてきた声に視線をやる。木々をへし折りながら四足歩行の黒い熊が現れ、クミンへと迫っていた。
「遅いよクロっ。もうキーやられちゃったよ」
「そう言うな。シロだって援護できなかっただろう」
黒い熊、クロが軽口を叩きながら立ち上がる。鋭い爪がついた大きな前足をクミンに向かって豪快に振り下ろした。
「くっ、思ったより速いじゃないかいっ」
文句を言いながら大剣でガードするクミンだったけど、膂力が強く殴り飛ばされてしまった。
「がっ、あっ」
「クミン!」
あのパワーをもつクミンが、力負けして背中から木に叩きつけられた。一度地面に膝をつくも、首を振ってから立ち上がる。どうにか無事だ。
しかしせっかく一匹減らしたと思ったのに、とんでもないのがまた一匹増えるなんて。
事態はなかなか好転してくれなかった。




