660 弱肉強食
「ほぅ、勇者もなかなか持ち堪えてるね。ザコ一人死人を出していないなんてさ」
黄色いボディにまだら模様の首が長い獣、キリンが登場さながら見下してくれる発言をした。
「マジかよ。また喋ってやがる。ホントに上位種が四匹もいやがるのか」
「驚いてる暇はないよワイズ。勢揃いする前に一匹でも減らさなきゃ、ワシらの立つ瀬がない」
嘆きながらシロとの魔法合戦をするワイズに、クミンが叱咤する。
そうだ、精鋭達が気張っているというのに、勇者たちが手を拱いてなんていられない。
「いいタイミングだよキー、派手にやっちゃって」
「巻き込まれるなよシロ。大まかな狙いしか定めれないからな」
キーと呼ばれたキリンが、その長い首をブンブンと振り回して周囲の木々を薙ぎ払う。
「何をする気だ」
「こうするのさ。フンっ!」
キーが地面に勢いよく踏みつけると、薙ぎ倒した木が衝撃でボクたちの方へと吹き飛んできた。
「なっ」
無造作で大胆で、ムラのある広範囲攻撃。狙いが大体でしか定まってない分、とっさに避けるという行動がとりづらい。
「ワイズ、散らせるか」
「やってやらぁ」
「やらせないよ。ショット」
ワイズが降り注ぐ木々を撃ち落とそうとしたところに、シロからの風魔法が飛んできて妨害されてしまう。
「ちぃ、ウザってぇ!」
「ウザったいのは、ここからだと思うよぉ」
シロは落下している木々さえも足場にして蹴り、急襲の跳び蹴りをワイズへと放ってきた。
「させないし、待ってたよ!」
クミンが割って入りりながら、シロに大剣の振り下ろしを合わせた。上手い。
「なんてね。ボクは囮、時間稼ぎだよ」
シロは空を蹴って方向転換する事で危機を逃れ、再び空を跳び回り始めた。
「うわぁぁぁぁあっ」
降り注ぐ木々に打たれ、悲鳴を上げる精鋭達。そして獣共も。敵味方見境がない。
しまった。何人か被弾した。
「みんな無事かっ!」
「おい、何寝てんだ。シッカリしろっ!」
「ぐっ、うっ。チクショーがぁ!」
被害どころか死者すら出ていそうだ。ボクが回復に回るにも、獣がそんなこと許してくれない。
「くっ、生き残ってるみんなだけでも迫り来る脅威に集中しなさい。負傷した二人、守ってあげるから陣の内側に避難するのよ。下敷きになった二人は、一旦忘れなさい」
エリスの指示が戦場の悲惨さを突きつけてくる。
被害のない戦場なんてあり得ない事はわかっている。経験だって何度もしてきた。味合わされてきた。けど、わかっていてもやっぱり苦い。
「まずは小物が二人か。さっさと小者を全滅させるか、あるいは大物を一人仕留めたいところだな」
「正気か。自陣にも被害が出ているだろう」
「承知の上だ。この戦い、命も矜持も全てを注ぎ込んで挑んでいる。全力の覚悟を舐めないでもらおうっ!」
キーが再び周りの木々を長い首を振り回しながら薙ぎ倒していく。
あんな範囲攻撃を無差別に何度も食らってしまったらソレこそ全滅してしまう。
どうしたらいい、どうしたら。
「さぁ、慌てふためいてもらおうかっ!」
キーが力強く地面に踏みつけると、地獄の第二波が吹き飛ばされてきた。




