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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第11章 堅物のグラス
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649 理想の魔王像

 窓から射し込む陽射しを横目に、マッパの俺はベッドに座りながら(うつむ)いていた。

「どうして、こうなった」

「あら、女も満足に襲えない魔王なんて威厳がないと思いませんか。けど晴れてワタシをメチャクチャに犯したのですから、グラスは堂々と極悪非道な魔王を名乗れますよ」

 同じベッドで布団に包まっているドゥーシュが、息を切らしながら俺の呟きに応える。

「俺の目指す魔王像は力による支配なんだ」

 理想は父さんだけれども、俺にあの(しゅ)の魔王はムリだからな。

「ついでに言うと、俺は7歳児だ。女を求めるには早すぎるし、責任も持てない」

 身体こそ急成長を遂げて精通もしているが、子作り子育てをやりきれるほど成長はしていない。それに、俺も(じき)に地に果てる。

「グラスはマジメですね。考え方を変えてはいかがですか。無責任で身勝手だからこそ、勇者の正義感を逆撫でる事ができるではありませんか。ジャスに全力を出させる起爆剤を用意したのですから喜ぶべきでしょう」

 俺の胸筋に白く細い手をペタンとつけながら上目遣いに見上げるドゥーシュに、溜め息が漏れた。

「俺は極悪になりたいんであって、クズに成り下がりたい訳じゃないんだ」

「でしたらワタシが認めます。グラスは立派な男の子だって」

 勝てない。癒す能力こそ強いが戦う力もないか弱い僧侶に。

 出会った当初。嫌悪感を込めた眼差しで睨み付けては、負けないって意志を込めて罵倒を投げつけていた。軟弱な抵抗しかできない弱者。手をかけるまでもなかった。

 ソレが時間が経つにつれて敵愾心(てきがいしん)がなくなり、気がつけば心の(ふところ)に潜り込まれて離れなくなっていた。いつの間にか、やりにくくてしょうがなくなっていた。

「どうでもいい内に殺しておけばよかった」

 ポロッとこぼれた独り言を、ドゥーシュは微笑みで受け止めていた。

「おい、ドゥーシュは媚薬(アレ)をわかっていて飲んだのか」

「まさか。ただ神のお告げがあったのです。今日グラスが持ってきた物は回収すべきだと。見て調べて、驚きましたけどね」

 お告げとかサラっと言ってくれる。

 勇者一行の間近まで近付いた聖なる女神だけあって、そういったスキルでも持ち合わせているのかもしれない。

「驚いたわりにはためらいがなかったぞ。万が一デキてしまっても俺は責任をとれんからな」

 男として、最低な発言だな。叶う事なら、俺も父さんみたいに子育てをしてみたかった。でも父さんに命懸けで力を求められてしまっては、手助けする以外あり得ないよな。

 兄弟みんなが父さんを好いていたけど、俺だって好きなのだから。

「安心して下さい。そんな事に期待はしていませんから。でもこうやって繋がった行為そのものが、側で生きていたって思い出になってくれます。命は、心に残るのです」

 不意に、言葉が脳内に響く。


 キヒヒっ。堅物やってるわりにはヤる事ヤったじゃねぇか。案外、女に溺れるのも悪くねぇだろ。

 グラスも男の子だったのですね。いいのではないですか、根性なしよりは幾分(いくぶん)か誇れますよ。


 何で聞こえたのがデッドとシェイなんだ。心なしか温かい眼差し付きだったように感じたぞ。ソレとお前ら、仲悪くなかったか。

「まだ媚薬が残っているせいですかね。グラスが好きな気持ちが収まりません。一時的とは言え女神に好かれるほど頼もしい男の子なんです。誇って勇者と戦ってきて下さいね」

 ドゥーシュは言うだけ言うと、俺の胸筋から手を離して眠りについた。

「俺を好き、か。まさしく媚薬のせいだろ。薬が抜ければサッパリ落ち着くだろう」

 俺も、荒ぶる心を落ち着けたらいいけど。

 雑念を振り払うよう首を振り、右手を力強く握って勇者との戦いをがんばって想像しようとした。

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