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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第11章 堅物のグラス
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648 女神による処分

 獣王城の俺が寝泊まりする一室までドゥーシュを連れ去り、椅子へと座らせた。最初は一つあれば充分と思っていた椅子なのに、なぜか二つ常備しなければいけなくなっていた。

「あらあら。これでワタシはまた(とら)われの女神ですか。ナニをされるかわかったものではありませんね」

 余裕ぶってクスクスと笑う仕草は、十人中十人がかわいいと思うだろう。獰猛(どうもう)な男と二人きりの時に見せるなんて、少々危機感が足りていないのではないだろうか。

 テキトーに二杯の緑茶を淹れ、テーブルに置く。

牢獄(ろうごく)に放り込んで半日ほど放置しても構わないんだぞ」

 俺はドカリと対面の椅子に座り不機嫌に(にら)み付ける。

「酷いわね。血も涙もない魔王みたいよ」

 全然怯えてない姿を見て、俺は諦めの嘆息(たんそく)を吐いた。

「もういい。本題に入るぞ。喜べ、ようやく勇者たちが俺を討伐しにプラサ・プレーヌへ進行を開始したぞ」

 待ちに待っていたであろう情報を教えてやる。己を忘れて喜ぶだろうか、それともあまりの遅さに怒りを表すだろうか。

「それは嬉しいですね。やっと、グラスが満足に戦えるのですから」

 ドゥーシュは両手を軽く合わせて少し顔を傾ける。微笑みをたたえながら、俺の事で喜びだした。

「いやおかしいだろ。普通はやっと助けに来てくれるとか、ワタシは勇者を信じてましたとか言う場面だろうが」

「勿論ジャス様方に対する想いも持ち合わせております。けど今は、目前の事柄の方が遙かに大事なのです」

 (よど)む事なく言い切る姿に、俺が言葉を詰まらせてしまう。なぜドゥーシュは平常心でいられるんだろうか。ようやく救いの手が差し伸べられるというのに。

「ところでずっと気になっていたのですが、実家から何か持ってきていませんか。グラスからとても悪しき気配を感じられます」

「悪しき気配。ひょっとして、コレの事か」

 不意を突かれた俺は素直に思い当たったブツ、フォーレ印の媚薬を取り出した。

「なんと(おぞ)ましいオーラ。グラスが持っていては危険です。ワタシが責任を処分したしましょう」

 今まで平静(へいせい)(よそお)っていたドゥーシュが眉を(ひそ)めて嫌悪感(けのかん)()き出しにする。

 おいフォーレ。お前の作った媚薬は女神から危険物扱いされたぞ。勇者に対する関心を越えるってどれだけの代物(しろもの)なんだ。

「助かる。俺も手に負えずに困っていたところだ」

 勢いに気圧されながら媚薬をドゥーシュへと手渡した。突然の助け船に感謝しかない。きっと聖なる魔法で厳重に封印するか無力化するかしてくれるだろう。女神様々だ。

「ありがとう。では処分いたします。えいっ!」

 処分と口にしながら、ドゥーシュは躊躇(ためら)いなく媚薬を全部飲み干した。

「ちょおぉぉぉぉお。何やってんだ、吐き出せバカっ!」

 全身の毛を逆立てながら叫ぶも、時既に遅し。ドゥーシュは顔を赤らめ、鼻息を荒くしながら俺を見つめてきた。

「何という即効性と効き目。さすがは極悪非道な魔王。こんな危険物をワタシに差し出すだなんて。コレはもう、責任をとってもらうしかありませんね」

「処分すると言ったよな。言ったよなあ!」

 椅子から立ち上がり、後ろに下がって距離をとる。しかしジワリジワリと壁に追い込まれ、いずれは距離を詰められる。

「グラスが目の前で見ていたとおり、ワタシ(みずか)らで処分させていただきましたよ。あぁ、理性のタガが外れてしまいます」

(はか)ったなこんちくしょうがっ!」

「男の子なら潔く覚悟を決めるところですよ。逃げるのですか」

 至近距離にある据わった黒い瞳が、ナマイキにも挑発を仕掛けてきた。

「おっ、俺が尻尾を巻いて逃げるどあり得ん」

「えらいえらい。ソレでこそ男の子です」

 魅惑的(みわくてき)(つや)やかな(くちびる)が、俺から退路と他のモノを奪ったのだった。

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