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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第11章 堅物のグラス
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643 巡る形見

 一人静かに発展したヴェルダネスを肌で感じるつもりが、ススキに出会った瞬間騒がしいものへと変わってしまった。

 気のせいでなければ周囲の目も緊張から興味の色に染まっていた気がする。

 注目を集めるのは嫌いではないが、できればもっと畏怖(いふ)に包まれたものが好ましい。ホントに。

 とにかく散策は散々だった。こんな時は魔王城タカハシにあるトレーニングルームで筋トレしながら鬱憤(うっぷん)を晴らすしかないだろう。

 早足でヴェルダネスを出てからは全速力でダッシュをした。程よい汗をかきながらものの数分で魔王城タカハシへ到着。すぐさまトレーニングルームに入り、数ある筋トレ機器を吟味(ぎんみ)する。

 昔はよくシェイと一緒に鍛えたものだ。アクアやエアも時折見たし、人気(ひとけ)のないタイミングでデッドも使っているみたいだったな。

 ()さを晴らすにはとにかく重い物を持ち上げるに越した事はない。限界を超えた時は爽快そのものだ。何もかも忘れて喜べる。

「ふっ、シェイにはもう少しバランスを考えたらどうです。と(たしな)められたっけか」

 とにかく筋肉を鍛える事に特化していたし、今も変わらないからな。120%のグラサンが目標だった。

 まず手始めにダンベルだ。おもりをコレでもかってほど贅沢に取り付けてから腕力の旅を始める。

「バーベルをダンベル扱いするのは冒涜(ぼうとく)というものよ、グラス」

「チェル様。こんなところまでどうしたのですか」

 せっかく腕筋が温まってきたところだというのに、興が冷めてしまう。筋トレは続けるけども。

「鍛えるのなら動きやすい服に着替えた方がいいですよ」

「コーイチが六つに割れた腹筋が好きなら考えてもよくてよ。試しにやってみようかしら」

「お願いします。父さんの為にも是非やめてあげて下さい」

 (あお)りをマジメに返さないでいただきたい。

「冗談よ。っで、腹筋を鍛えるにはどの器具がよくて」

「その冗談はどこにかかっているのか是非教えていただきたいのですが」

 反射で問うと、微笑みを返された。心臓に悪い。どうやったら心臓は鍛えられるんだ。

「ホント、グラスはからかうとおもしろくてね。そろそろマジメな話をしましょうか。プラサ・プレーヌについてよ」

 空気が変わった。俺の侵略地だ。筋肉が張り詰める。

「率直に聞くわ。勇者の元仲間である女神とはどこまで進んだのかしら」

 バキっ!

 いかん。動揺のあまりダンベルのシャフトを握り潰してしまった。

「チェル様も(ひま)なおばさまですね。そんな些細な事を覚えていらっしゃるとは」

「おもしろいぐらい動揺するわね。そんな調子でちゃんと子作りできるかおばさま心配よ」

 くっ、おばさんが効かない。

 チェル様は俺が歯がみしている間に近付くと、とある薬を渡してきた。

「これは?」

「フォーレお手製の媚薬よ。女神に会う直前に飲んでみるといいわ」

「変な物を渡すんじゃない!」

 腕を振り上げ、地面に叩きつけようとする。

「一応、フォーレの形見だから無碍(むげ)にしない事ね」

 制止の声が腕の筋肉を止めた。なんて形見を残してるんだフォーレは。

「ぐっ、ぐぅぅぅぅっ!」

「私も七歳児の男の子に踊らされるほど幼稚ではないの。安心なさい、戦いにおいてはグラスに何も言う事ないもの。楽しんでくるといいわ」

「その言葉、媚薬(かたみ)なんか渡す前に言って下さいよ。素直に喜べないじゃないですか」

 なんで女って生き物はどいつもこいつも色恋沙汰(いろこいざた)を引っ張り出すんだ。

 憂さは、溜まる一方だった。

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