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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第11章 堅物のグラス
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642 年上の小娘

 ヴェルダネスは今日も活気に溢れている。昼食に入った店の肉も美味かったし、かなり生活水準が高い。

 幼い頃に初めて見つけた時は、干からびる寸前の村だった。

 俺達が、ヴェルダネスをここまで造り変えるきっかけをあたえたんだったな。

 父さんが指示を出し、俺達兄弟八人で環境を整えた。タカハシ家の庇護(ひご)が完全に消えても存続するよう、教育も充分に行き届かせた。

 実質、俺以外の兄弟を失ってもヴェルダネスは(とどこお)りなく回っている。水は流れ、風は吹き、木々が整えられる。俺も安心して戦場へ向かえる。役目を終えれる。

 今でこそ俺に気付いて頭を下げる人々だが、いずれはそれもなくなり歴史に埋もれる事だろう。

 気まずくて仕方なかったからな。(うやうや)しく(たてまつ)られるより、対等に相対する方が性に合っている。

「あれ、グラスじゃない。珍しいわね。みんなが頭下げてるからてっきりコーイチかチェルが来てたんだと思ってたけど」

 黄土色のサイドテールをしたススキが気軽に話しかけてきた。最初こそ父さんを(がい)なす(おさな)刺客(しかく)だったていうのに、随分と(ふところ)(うち)に入ってしまった。今では対等に話ができるほどだ。

「ススキか。いい加減俺の番が回ってきたからな。せっかくだからヴェルダネスを見納めておこうと思った」

 (かざ)らずに率直(すなお)に答えると、ススキはこめかみの辺りを指でグリグリしながら眉を八の字に歪ませる。

「いいけどさ。あたしはとっくに覚悟できてるしわかってるから。けどヴェルダネスの真ん中でそう言う事言うのやめなさいよ。グラスもなくてはならない存在なんだから、発言する時は周りに気を利かせなさい」

 グイグイと迫ってきたかと思うと、俺のデコを指でつつきながら説教してきた。思わず身体を仰け反らしてしまう。

「すっ、すまない」

 この圧はいったい。俺より(はる)かに弱い年上の小娘だというのに、反論を封じられている。冷や汗も流れて止まらない。

「まったく。そういうところはまだコーイチの方が気が利くんだからね」

 腕を組んで文句を言う。ひょっとして対等を越えているのではないか。いや俺も各上を相手に挑むのは好きなのだが、ススキが相手だと(みょう)萎縮(いしゅく)してしまう。

「ほーら。男の子なんだからシャンとしなさいよ。そんなんじゃコーイチに心配されるわよ」

「見くびるなよ。父さんに心配させるほど、俺は軟弱ではない」

 ムッとしたから視線に殺意を込めて睨み付ける。するとススキは肩の力を抜いて微笑んだ。()せぬ。

「そうそう。グラスはちょっと野性味溢れるぐらいが丁度いいのよ。戦いたかったんでしょ、タカハシ家一番の武闘派だものね」

 気が抜けてしまった。つくづく女には敵わないな。

 ススキに(しか)りチェル様に然りアイツに然り、エアにもフォーレにもシェイにも、そしてアクアにも畏怖((いふ)の念を感じさせられる。女心なんて意味がわからん。

 けど越えたい。せめて、生きているアクアだけでも。

「どうせ俺は戦い以外不器用だ。戦闘に関わる事以外の興味も薄い。でも家族は大事に想っている」

「その想いが大切なんだからね。行ってきなさい、グラス」

 言うやいなや、ススキにハグをされて背中をポンポンと叩かれた。

「おまっ、ススキ。道の真ん中でそういう事をするのはやめろ」

「やだっ、顔赤くしちゃって。ちょっとの事ぐらいで動揺なんてしないの。あたしにとってもタカハシ家は特別なんだからね」

 俺達タカハシ家への想いがまっすぐすぎて、直視できずに目を逸らしてしまった。

 やっぱり、女は苦手だ。

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