640 裏方に埋もれていた仲間
フォーレとの戦いで生じた心の傷を癒すため、数日ヴァルト・ディアスに身を留める事になった。
タカハシ家との戦いは、ただ失う物が多い。
アクアが巫女キナハトや色んなエルフ達にフォーレがどう聞いて回る日々だ。
ボクやワイズ、クミンも心配だったけど、ずっとベッタリとついて回るのも違うので自然に前向きになれるのをただひたすらに待つ事になる。
エリスは特別だったからベッタリくっついていたけどね。
女の子とは常に一緒にいる事が普通なのかとクミンに尋ねたら、少なくともドワーフはそうじゃないって答えられたよ。種族が悪かったかな。
アクアはフォーレの軌跡を知る度に少しずつ明るさを取り戻していき、同時にエリスは微妙な表情を増やしていった。
フォーレの奇行が聞くに堪えなすぎて、同じエルフとしてもう。との事。
あの娘は本当に何をやってきたんだ。知るのが恐ろしくなる。
エリスの不機嫌というよくわからない対価を払いつつもアクアは元気を取り戻してゆき、ついには吹っ切れる。
そしてエリスが頭を抱えていた。話を聞いてみると思いもよらないきっかけが急に訪れたんだとか。
アクアは道行く途中、最後に残ったタカハシ家、魔王グラスから連絡が届いたらしい。
「最初はアクアの言葉しか聞こえなかったんだけどね。話が終わってからあっけらかんとアクアが教えてくれたわ」
ほんの少し会話をしただけで、アクアは戦意を復活させたのだと。
確かにいろいろと複雑にさせられる。そんな重要そうな事を隠さなくても大丈夫なのか。最後に残った弟に鼓舞されといて、命懸けの戦いをして大丈夫なのか。終わった時の喪失感に堪えられるのか。
もはや不安しかない。けれども進まなければならない。
今度こそ、最善の形でタカハシ家の暴虐を止めるために。
「それに、プラサ・プレーヌには彼女もいるかんな」
「ジャスだって心配だったんだろう」
ワイズとクミンの言葉にボクは頷いた。
魔王アスモデウスとの決戦には同行しなかったものの、ギリギリまでボクたちの仲間だった僧侶。
慈悲深い回復のエキスパートが故に、非力で戦場へ連れていけれなかった裏方の仲間。
彼女の強力な回復魔法がなければボクたちは生きていなかった。だから凱旋は五人でって思っていた。
謙遜なのか後悔なのか、最終決戦へ乗り込む事ができなかった臆病者に称賛を浴びる資格はないと頑なに拒まれてしまった。
そして罪滅ぼしも込めて、プラサ・プレーヌの女神として祭り上げられ派遣されてしまった。
形だけの代表者。何か起こったら責任を負わねばならない生贄。事が起こってしまっている現状、生存している可能性はほぼゼロに近いだろう。
それでも助けに向かう。できうる限りの回り道をしてしまったが、新王都プラサ・プレーヌを奪還する。
すぐに行くから待っていろ、魔王グラスよ。




