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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第10章 病原のフォーレ
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637 女どうしの約束

「ご苦労様ススキ。ハーブティよ。フォーレが出かける前にたくさん作り置きしてくれたの。助かってるわ」

 タカハシ家二階建て一軒家のダイニングで、あたしはチェルとテーブル越しに向き合って座ってるわ。

 コーイチと(いとな)んでからシャワーを浴びて、フッカフカのバスローブに身を包みながらチェルが淹れてくれたハーブティーを受け取った。

「ありがと。けどいいの。もう、貴重なお茶なんでしょ」

「使わなければダメになってしまうもの。それにススキならフォーレも喜んでくれてよ」

 妖艶(ようえん)に微笑みながらチェルは自分のハーブティを一口飲んだわ。ホント仕草がお姫様なんだから。高嶺(たかね)の花もいいところね。

 あたしは(のど)(かわ)いていたし、ハーブティもそんなに熱くなかったからぐいっといったわ。

 カップを置くと、チェルの表情が微笑まし気なものに変化してたわ。

「何よ。なんか文句あるわけ」

 どうせあたしはチェルみたいに上品じゃいられないわよ。

「いいえ。ただ豪快(ごうかい)だと思っただけよ。そういう気さくなところが、コーイチの警戒心を薄めたのでしょうね。少々羨ましいわ」

「やっぱりバカにしてるでしょ」

「そうむくれないの。私と違って愛嬌(あいきょう)あるのよ。とっつきやすいから安心してコーイチを任せられるわ」

 ちょっと、違和感があるんだけど。潰れかかっているコーイチを任せる都合のいい女にしているなら別にいいわよ。どんな形であれコーイチとチェルから頼られてるんだもん。けど、そんなニュアンスじゃなさそうなのよね。

「そんな事言ってるとコーイチとっちゃうわよ。イヤだったら」

「ススキなら別に構わなくてよ」

「は?」

 チェルは優雅にハーブティを飲みながら、スラリと、ふざけた言葉で割り込みやがった。

「私じゃ、コーイチを癒やせないもの。ススキがいなかったら、命を繋ぎ止められてなかったわ」

 違う。譲ってやるなんて上から目線じゃない。コレは、諦めてる。

「ふざけないで」

 テーブルをドンと叩くとカップがカチャリと音を立てた。ハーブティが揺れる。

「ススキ」

「言っとくけどあたしだけでもダメだったんだから。コーイチの心の中心にはね、チェルが存在しているの。チェルのためにがんばって傷ついて、何度だって這い上がってるの!」

 宝石の様に赤い瞳が驚きで見開かれる。驚く仕草までお姫様だ。

「いい、コーイチはチェルがいるから這い上がれたの。あたしはその手伝いをしただけ。チェルが存在しなかったら、あたし一人じゃコーイチを立ち直らせれなかったんだから!」

 感情のままに立ち上がって、脱衣所に脱ぎ捨てた服を漁りに行く。フォーレからもらった媚薬を手に取って戻ると、チェルへ突き出したわ。

 チェルはあたしの顔と媚薬とで二度ほど視線を往復させたわ。

「コレは?」

「フォーレからもらった媚薬よ。あたしよりチェルの方が必要なんじゃないの。チェルはコーイチのお姫様なんだから、心を開けばすぐに飛びついてくれるわよ」

「お姫様じゃコーイチは、気後れしてしまうわ」

「関係ない。今気後れしてるのは、チェルの方なんだから。だから黙って受け取りなさい」

 ズイッと媚薬を突き出す。チェルは困った様に笑みを浮かべながら、服の中から薬を取り出したわ。

「何よ?」

「懐妊薬よ、フォーレお手製の。あの()はホントに用意周到なんだから。ススキも似た様な(もの)をもらっていたのね」

 ちょっとフォーレ。アンタには恐怖心とかないわけ。

「もしかしたら、ここまで先読みしていたのかしら。いいわ、交換して使ってくれるのなら、私もコーイチを受け入れてよ」

「フォーレ印の懐妊薬なんて、効き目は明らかじゃないの。アイツ、あたしの子供まで望んでたわけ」

 文句を言いながら受け取ってやったわ。チェルも同時に媚薬を受け取る。女どうしの約束が交された。強気に笑みを作ってちゃったら、涼しい微笑を返されたわ。

「ところで、よくさっき媚薬を使わなかったわね」

「効き目が怖かったのよね。それにあたしが飲むべきかコーイチに飲ませるべきか悩んだのもあったから」

「フォーレの事だからギリギリを攻めた劇薬だったでしょうね。コーイチに使ってたらそれこそ命が危なかったかもね」

 ちょ、フォーレ。

「フフっ。私たちは長生きしましょうね、ススキ。コーイチの分まで、一緒に」

 伸ばされた手はやっぱりか弱くてキレイだった。けど、気後れするほど立場が違うわけじゃない。

 あたしは力強く手を握って、握手を交したわ。

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