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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第10章 病原のフォーレ
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636 残り香

 花の香りがする。強い存在感のある香りだ。けど不快じゃない。

「おちついたぁ、おとー」

 気がついたらフォーレが俺にもたれて座っていた。っていうか俺も座っているみたいだ。

 フォーレの顔を見ようとするんだけど、どうしてか顔が動かない。どんなに力を込めても、なぜだかダメだった。

 この感覚には覚えがんな。夢だ。夢ってのは突拍子もない事が突然起きるのに、ソレを疑問にも思わずそういうもんだと認識しちまう。あり得ない状況を不思議と受け入れてしまう。そして不自由だ。

「まぁな。フォーレは楽しかったか」

 反射的に言葉を返す。何だったかな。何かを楽しんできたような気がすんだけども。

「楽しかったよぉ。いっぱい驚かす事ができたしぃ、キレイなアタイを見てもらえたもぉん。最後なんて感動的だったんだからぁ」

 のんびりながらも声を(はず)ませている。視界の端に緑のモヤが映り込んでは消えていく。もどかしくて(たま)らない。どうしてフォーレの姿を一目見れないんだろう。

「おいおい。フォーレが幼い頃から思ってたがよぉ、やっぱ困ったいたずらっ子だわ、ホント」

 言っておいて寂しさが湧き上がってくる。今だって隣で俺を困らせてるってのに。

「もっと近くで困らせ続けるのも楽しそうだったけどねぇ、やっぱりアタイは花だからぁ。(つぼみ)のまま甘え続けたりできなかったんだよねぇ」

「花、か。咲いてる時はいいんだけど、(しお)れたらやっぱ寂しいよな」

「おとーは残酷だねぇ。枯れた女は用済みになっちゃうのかなぁ」

 なんか急にゾッとした。二人の女からプレッシャーを与えられている、くたびれた俺が脳裏を過った。

「なんか肩身の狭いおっさんが想像出来ちまったんだけど」

「またまたぁ。体験してみたいんでしょ、肩身の狭い未来をぉ」

 確かにとても窮屈(きゅうくつ)そうな生活だけれども、どこか温かみがあって幸せそうな気がする。生きていれば普通に存在する未来だ。

「だな。けど、そうじゃいられねぇだろ」

「覚悟は決まったねぇ。大丈夫ぅ、おとーもキレイに咲けるからぁ。勿論チェル様もススキもぉ、キレイに咲いてくれるよぉ」

 横から抱きつかれながら気付かされた。フォーレは花でありながら、オレ達を咲かせる肥料にもなっていたんだって。

「せっかくフォーレだって立派に咲いたんだ。俺だって、咲かせる前に萎れてられねぇわな」

 自然と笑みがこぼれたぜ。大丈夫、まだ立ち上がれるさ。

「わがままな娘でごめんねぇ。育ててくれてありがとぉ。わがままついでにぃ、最後のお願ぁい。チェル様もススキもぉ、おとーがキレイに咲かせてあげるんだよぉ。ばいばぁい」

「別れの間際に厄介なお願い押し付けんじゃねぇよ。言われなくったて、そのつもりだっての」

 隣から緑のモヤと、花の香りが消えた。

 浮上する様に現実の記憶が蘇ってくる。

「そうだよ。フォーレが死んだんだよ。んで、ススキに慰めてもらったんだっけか」

 タカハシ家二階建て一軒家にある自室のベッドに横たわりながら、意識を覚醒させたぜ。

 お願い、叶えなきゃな。

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