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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第10章 病原のフォーレ
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635 支え

 本当にススキは大した娘ね。私と子供達が躍起(やっき)になって立ち直らせていたコーイチを、己の心を(さら)け出すだけで解決するのだもの。

 私にはできない芸当だわ。最初こそ出しゃばってコーイチの意地をつついてみたものの、ソコから先は全部ススキが全部持っていったわ。安心して任せられる。

 もっとも、押し倒すのは感心しないのだけれども。貧弱なコーイチの身体が地面に叩きつけられでもしたらショック死してしまうわ。咄嗟(とっさ)に空気をやわらかく固めたエアクッションを造らなければ危なかったわよ。

 私が後ろで見てるまま露出(ろしゅつ)プレイに興じるつもりがないのなら、やわらかいベッドに誘導して慰めてあげなさいな。

 いい意味でススキは、コーイチにとって緊張感のない娘なのだから。

 手を取って連れてきている時に思ってよ。逞しい一般労働者の手をしてるって。私の華奢で壊れ物の様な手とは大違い。振れたら壊れそうっていう、不安感がない。

 コーイチ自身も地球という世界では冴えない一般人だったと聞いている。だからススキとは緊張せずに接する事が出来るのでしょう。対等ってやつね。

 遠慮せずに愛を育みなさい。コーイチに生きる気力が湧くのなら、相手は私じゃなくても構わなくてよ。

 ススキは勢いのままタカハシ家二階建て一軒家まで場所を移して、泥沼に沈んでしまったコーイチの心を救って温め始める。まぁ、さすがのススキでもコーイチをお姫様抱っこで運ぶのはムリな様だったけれども。

 私は背中に一枚ドアを挟んで(はぐく)みを耳で確認する。

 思えば最初は粗雑(そざつ)に、コーイチの童貞を奪ってやったっけ。魔王って責任が私の背には重すぎて、少しでも(すが)れる何かを手に入れようと必死だった。

 投げやりで幼稚な策が、実を結んで最強の子を成し、魔王に追い抜く強さにまで成長をした。そんな取り扱い困難な劇薬たちから、コーイチは慕われて立ち上がった。

 私の守る最弱の魔王へ。

 魔王はどれほど大きな壁に見えただろう。勇者はどれほどの断崖絶壁に見えただろう。肩代わりした魔王(やくわり)はどれほど重かっただろう。

 けどコーイチは想像を絶する覚悟と意地で突き進んでくれた。心を折りながら、身を潰しながら、ズタボロで。

 殺されそうなほどの困難にも意地で立ち向かっていたコーイチが、子供達の死に対面して崩れだした。ボキボキの心を支えていた、その支えを失ってしまった。

 想像を遙かに超えるプレッシャーよりも、ひとつひとつの喪失(そうしつ)の方が遙かに難敵なのだと気付かされた。

 消えていく支えの中、ススキは新たな支えになってくれた。これほど頼もしい者はいない。

 どうか、コーイチの幸せとなって支えてあげて。

 私はフォーレからもらった懐妊薬(かいにんやく)を取り出して眺めた。

「やっぱり私には不要の産物みたいね。フォーレは不甲斐ない私を許してくれるかしら」

 きっと、苦笑いで許してくれるわね。大丈夫、ススキに蒔いた種は確実に実っているから。

 不意に微笑みをこぼしてみたわ。

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