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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第10章 病原のフォーレ
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632 花は咲きそして散りゆく

 俺の一日は窓から射し込む光で始まる。二度寝したい欲求をベッドへ置き去りにし、後ろ髪引かれる思いでパジャマから着替え、朝食の準備をする。

 この日はグラスに先を越されていて、既に朝食は作られていた。ただでさえ少ない俺の仕事だったのにとふて腐れたい気持ちに(おちい)ったが、褒めてほしそうにしていたグラスが愛おしかったので頭をグシャグシャに撫でてやる。

 そんな事より顔でも洗ってきたらと呆れられてしまった。うん。言葉に甘えるようにしよう。

 ダイニングで席に着き、俺はチェルとグラスと三人で静かな朝食を食べたぜ。食パン一枚で満足できるおいしさだ。昔は平気でおかわりしてたんだけどな。

 子供達が揃っていた頃の食事はとにかく賑やかだったっけ。もはや懐かしささえ感じちまう。

 しみじみと思いながらコーヒーを(すす)っていると、憐憫(れんびん)を込めた視線を感じた。

 朝食を終えると、魔王城タカハシの点検へと出歩く。散歩がてらに見て歩いているだけなんだけどな。城主なんだから形だけでも行動しなさいとチェルにせがまれた。

 酷い言い草だけれどグゥの音もでない。実際、見て回っていないと城内の構造を忘れてしまうのでサボれないって実情もある。ゲームの裏ダン並みに入り組んでっからな。子供達はよくこんな城を建てたもんだぜ。無事に謁見の間こと、俺の棺桶予定地まで辿り着いた。

 広々とした空間にデンと(そび)える玉座。そして子供達の象徴(しょうちょう)(かたど)った八つの支柱が等間隔で並んでいた。

 ここに来ると、子供達に見守られている様な心強さを感じられる。

 ごめんな、小心者の父親で。でもすっげぇありがてぇぜ。

 入る度に感謝をしては、点検を終了して二階建て一軒家の我が家へと帰る。

 昼食を食べてから、ヴェルダネスの村人達に顔を見せに行く。なんでも俺の無事な顔を(おが)む事で安心して働けるんだとか。どういう意味なんだろうな。

(お父さん。聞こえる)

 アクアからのメッセージが聞こえてきたのは、ヴェルダネスに入る手前だった。タイミング的に、聞く覚悟が必要だと身体が強張る。

(よぉ、アクアか。今日はどうしたんだ。俺の声が恋しくなったか)

(お父さんの声ならいつでも聞きたいけど、そうじゃないんだ。私たち、フォーレと戦ったよ)

 あぁ、やっぱな。やっぱそうだよな。

(アクア、単刀直入に聞くぞ。フォーレの月下美人は、キレイだったか?)

(お父さん知ってたの!)

 驚いた声が瞬時に返ってきたぜ。どんなリアクションしてるかも想像に難くねぇ。

(まぁな。フォーレは俺が何度忠告しても、ここぞってタイミングで咲くって聞かなかった。枯れちまうってのにな)

(なんかズルいな。フォーレもお父さんも、大事な事秘密にするんだもん)

 おっと、ふて腐れちまったかな。けどそれ以上に、悲しんでんだろうな。

(知ってるからこそ、ツラい事だってあんだぞ。っで、フォーレはキレイだったか)

 大事な事だったから二度聞いた。きっと、フォーレにとっても重要な事だから。

(とってもキレイだった。悔しいくらいキレイだったよ。お父さんが見たらメロメロになっちゃったんじゃないかな)

(おいおい、まるで今までフォーレにメロメロじゃなかったみたいじゃないか)

(そんなんじゃ足りないくらいメロっちゃうって事だよ)

 他愛ない軽口を投げ合っては笑みをこぼし合う。裏に抑えている喪失感を零さない様必死になりながら。

(そいっつぁー一本取られたな。っで、大丈夫か。アクアはフォーレの事が一番大好きだったろ)

 へこんでる場合じゃねぇ。アクアの方が、きっともっとツラいから。

(ありがと。正直ね、フォーレと一緒に死んじゃおっかなって思ったりもしたんだ。けど私まで死んだら。お父さんがかわいそすぎるもん。死ねないって、気付かされちゃった)

 こいつ、俺なんかを気遣う事を生きる理由にしやがった。くそっ、ホッとしちまったじゃねぇか。っんと情けねぇなぁ俺。

(それにフォーレもヴァルト・ディアスでイキイキと暮らしてたって知ったからね。ちょっと安心しちゃったんだ。私以外にも、フォーレの思い出を留めてくれる人がいるって。とってもありがたいよね)

 おいおい。フォーレの事だから(ひね)くれた想われ方を築きあげてんじゃねぇのか。けど、確かにありがてぇわ。

(だな。ほんのちょっとの救いにはなるわ)

(そのほんのちょっとを、大切にしてねお父さん。またね)

 またね、か。いい言葉だな。次を存続させる力になんだからよ。

(あぁ、またな)

 返事をするとメッセージが切れたぜ。

 短いやりとりだったけど、会話っつーのは心を軽くしてくれんだな。重たい報告もついてたけどよ。

「くそっ、くそっ。おぉぉぉぉぉおっ!」

 俺はその場にしゃがみ込んで地面を叩いたぜ。

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