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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第10章 病原のフォーレ
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631 緑の居場所

 コピーフォーレから受け取ったタンポポの綿毛(わたげ)のおかげで、ボクたちは無事に崩れゆく植木鉢から脱出する事ができた。

 まぁかなり風に流されたから、ヴァルト・ディアスまで戻るのにかなり迷ってしまったけれども。辺りがすっかり暗くなっていたよ。

 遅い時間だというのに、ボクたちを見つけたエルフたちは次々に家から出てきて総出で感謝をしてくれた。

 鼻は赤いままだけれど、クシャミはすっかり治まっていた。あのデカいスギの木は植木鉢が崩れる前に黒焦げに燃えたからね。葉も焼け落ちていたし、もう花粉症に(さいな)まれる事もないだろう。

 ボクも戦闘中に(おちい)ったからわかる。クシャミが止まらないのは本当にツラい。

 巫女キナハトも遅まきながらに迎えてくれた。フォーレの行方がどうなったか聞いてきたので、助けられなかった事を伝える。

 キナハトは怒りに震えたが、一呼吸で抑え込む。そしてエルフの代表として、ヴァルト・ディアスを救った事に対する礼を言ってくれた。

 近付いた際に小声で、翌朝案内したい場所があると囁かれる。込み入った話がある事は容易に想像がついた。

 今日は疲れているだろうからと、早々に解放してもらい宿へと戻る。留守を任せていたロンギングの精鋭達もすっかり花粉症が治ってイキイキとしていたよ。同時に、澄まなそうに頭を下げられたね。気にしてないんだけどな。


 翌朝。ボクはワイズ、クミン、エリス、そしてアクアの五人でキナハトの家へ向かった。

 キナハトはボクたちを確認すると、先導して森の中へと案内し出す。

 着いた先には一本だけ大樹がポツンと生えている、森が開けた場所だった。とても清く強大な存在感を感じる。身体が(うやま)わなくてはと身構えてしまう。

「ここは」

「神樹サマネア様がおられる神域よ。もう中にいるから言葉は(つつし)む事ね」

「フォっフォ。そう(かしこ)まらんくても構わんよ。緑に愛されし娘は地に(かえ)ったか」

 しわがれた老人の優しい声が響いてきた。大樹から聞こえている。

「緑に愛されし娘っつぅのは誰だ」

「フォーレの事よ。わらわは気に食わなかったけど、サマネア様は気に入っていたのよ」

 ワイズが首を傾げるとキナハトは不機嫌に答えてくれたよ。確かにフォーレは愛される性格の様に思う。敵対していなければだけれども。

「はい。フォーレは、自身の月下美人(はな)を咲かせるために寿命を全て費やし、枯れて散りました。回復魔法も、受け付けなかったです」

 枯れた姿だけ見たらいたたまれなさしかなかった。本当にあの終わりでよかったのだろうか。

「あのバカ。わらわやエルフのみんなを苦しめたり、散々おちょくったりしておいて勝手に枯れるだなんて。身勝手すぎるわよ」

「おちょくるねえ、具体的に何をしたんだい」

 悔しそうに葉を食いしばるキナハトに、クミンが興味を示す。

「わざとヴァルト・ディアスに顔を出しては森で追いかけっこをしたわね。こっちは(とら)えるために矢を放ちながら必死だったって言うのに、フォーレはターザ○ごっことか言いながらぶら下がるツタからツタへ飛び映っては気の抜けた奇声を上げていたわ」

「よくわからないけどムカつくわね」

 エリスがキナハトの怒りに同調していた。アクアが苦笑いをこぼす。

「本当にむちゃくちゃだったわ。クシャミで苦しめておいて薬を配り回るとかエルフを見下しきった行動までし出すし。そんな事するもんだから、憎むに憎みきれなかったじゃない。文句の小一時間ぐらい言わせなさいよね。バカ」

「そっか。きっとフォーレも苦しめ続けたい訳じゃなかったんだよ。非常識なクセに、非情になりきれないんだから」

 キナハトのやりきれない文句を聞いて、アクアが微笑む。フォーレの評判が気になっていたのかもしれない。

「そうかそうか。緑に愛されし娘が天命(てんめい)(まっと)うした様で安心したわい。きっとキレイに咲けたのだろうな」

「うん。フォーレは一番キレイに咲いてたよ」

 神樹サマネアの独り言へ、アクアが反射的に答えた。誇らしげに顔を上げている。誰にも回答件を奪われたくなかったって意志もくみ取れた。

「うむ、青の娘よ。そなたは緑に愛されし娘と似た様な雰囲気を感じるのう」

「フォーレは私の妹だもん。でも、そう感じてくれるなら凄く嬉しいな」

「そうか。緑に愛されし娘も嬉しがった事だろう。青の娘よ、どうか咲いていた姿を記憶に留め続けておくれ」

「もちろんだよ。ありがとね、大樹のおじちゃん」

 なんか、アクアの心につっかえてた何かが取れた気がした。そう思える様な、キレイな満面の笑みだった。

「ったく。フォーレといいアクアといい、どうしてサマネア様をおじいちゃん呼ばわりするのよ。偉大さがわからないわけ」

「あっ、ごめんなさい」

「ふんっ。美徳(びとく)な素直さだけは見直してあげるわ。フォーレは謝らなずにヘラヘラしていたもの」

 キナハトが両腕を組んでそっぽを向くと、アクアはしばし目をパチクリさせてから笑みを深めた。

「そっか。フォーレと仲良くしてくれてありがとね。キナハト、サマネア」

「はぁ!」

「フォっフォ」

 キナハトの怒りがこもった声と神樹サマネアの愉快な笑い声が辺りに響いたのだった。

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