630 本物とか偽物とか
困惑している私をよそに、フォーレはジャス達にも巨大なタンポポの綿毛を渡していく。
「っで、綿毛でどうしようって言うのよ」
あっ、エリスが思わずつっこんだ。
「タンポポの綿毛を持ったまま飛び降りるに決まってるよぉ。頭にタンポポ咲いてるだけあってぇ、オリジナルよりタンポポの精度は高いからぁ」
「えっと。アレかい。この高所からでもメルヘンにフワフワと地上に降りられるのかい」
クミンがこめかみを押さえちゃった。まるで家庭が外れててほしいみたい。
「そのまさかだよぉ。大丈夫ぅ、オリジナルが用意してた脱出方法だもぉん。綿毛に乗ったつもりでいてよぉ」
「いや、そんな大船みたいに言われてもなぁ。しかも泥船の方がまだ頼れそうだし。そもそも人間の体重に堪えれんのか」
ワイズが持っている綿毛を疑わしげに観察しだしたよ。
「あんまり時間残ってないからぁ、さっさとアタイを信じて飛び降りた方がいいよぉ。ちょっと風に流されちゃうかもしれないけどぉ、まぁ死んだりはしないでしょぉ」
「ここぞってタイミングで不安を煽らないでくれないかい」
ジャスが呆れながら青ざめた。みんな不安なんだろうなぁ。
「大丈夫だよ。フォーレが考えてくれたんだもん。無事に脱出できる。飛び降りよう」
全力を出し切ってから私たちを貶めるほど、フォーレは悪人になれないもん。
キッパリと言い放ったおかげか、みんな決心して頷いてくれた。私は改めて、コピーの方へ振り返り手を差し伸べる。
「ねぇ、フォーレも一緒に行こう」
「ふぇ。アタイコピーだよぉ」
「コピーでも、やっぱり一緒に生きてほしい」
きっと本物とか偽物とかそういうのは関係なく、フォーレは私を想ってくれていると思うから。
緑の瞳をまん丸くしていたフォーレは、微笑んでから首を横に振った。
「やめとくぅ。だってアタイ達はぁ、オリジナルの側で眠るって決めてるからぁ。それにこの身体ぁ、すぐ萎れる様に作られてるんだよぉ。今生き延びたところで半日も持たないもぉん」
別れを告げる笑顔は吹っ切れていて、儚げで、悔しいほどキレイだった。やっぱりこの娘もフォーレだ。花は違うけど、散り際に惹かれてしまう。
「やっぱりズルいなぁ。大好きだから、余計にズルいや」
「仕方ないよぉ。大好きだからぁ、からかいたくなるんだもぉん。アタイのいじわるぅ、受け止めてくれてありがとねぇ。アクア」
あぁ、別れたくないな。離れたくない。
植木鉢の揺れが大きくなってきた。もうホントに時間がない。
「しょうがないなぁ。決心がつかないみたいだからぁ、アタイが背中を押してあげるねぇ」
コピーはそう言うと、正面から両手で私を空へと突き飛ばした。
「きゃ」
綿毛を両手で握り、風に乗ってフワフワと植木鉢から離れていく。ジャス達も周囲にフワフワと浮かんでいた。コピーが私と一緒に突き落としたみたい。
見上げると、植木鉢の端っこでフォーレが大きく手を振ってくれていた。小さくなって見えなくなるまで、ずっと。
「ぅっ、フォーレ」
風に流されながら漂っていると、バサリと白衣が近付いてきた。手を伸ばして捕まえると内側に日本語が書いてあった。
肩パットの代わりがぁ、白衣ぐらいしかなかったよぉ。
「もぉ、最後までボケないでよ。植木鉢、燃やしたくなっちゃうじゃない」
結局、最後まで振り回されちゃったな。




