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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第10章 病原のフォーレ
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629 最後の種

 死んじゃった。フォーレが死んじゃった。

 悪びれてるけどどこか憎めないデッドも死んじゃった。いつも笑顔で元気をくれたエアも死んじゃった。冷静で強くてかっこよくて、憧れていたシェイも死んじゃった。

 もうたくさんだったのに、大好きなフォーレまで死んじゃうなんて。もう笑ってくれない。のんびりしたテンションでとんでもない事もやらかしてくれない。優しく抱きついてくれない。私のお水を美味しいって、飲んでもくれない。フォーレまで、私をおいてっちゃった。

「……クア。アクア。いい加減目を覚ましなさいよ。早く脱出しないと、アタシ達まで巻き込まれるじゃない」

 気がついたら、必死の形相をしてるエリスの顔が、目の前にあった。両肩を両手でもたれて、ブンブン前後に揺さぶられてる。

「いい、よく聞きなさい。フォーレが死んで植木鉢が崩れかけてんの。今っ。早く逃げないと死んじゃうわ」

 死んじゃう。植木鉢にいたら、私が。

「そっか。ごめん。私、もう疲れちゃった。だから、フォーレがいる植木鉢に置いていってほしいな」

 ここで死んじゃえば、私はフォーレと一緒にいられる。もう悲しまなくてよくなる。ツラい事もなくなる。絶望を、消せる。

 バシンっ。

 顔が揺れて視界がブレた。頬が熱い。

「エリス?」

 力なく振れた視線を戻すと、エリスが(まなじり)をつり上げながら涙を溜めていた。

「ふざけんなっ。ふざけんなふざけんなふざけんなっ! アクアが死んじゃったら、アタシがどうにかなっちゃうじゃない。それとも何、アクアが今感じている絶望を、アタシにそのまま味合わせたいのっ!」

 本気だ。エリスも私の事、本気で愛してくれてる。私だって、この気持ちをエリスに押し付けたいわけじゃない。けど。

「やめて。沈みそうな雰囲気で視線逸らしてんじゃないわよ。アタシだって、大切な人を失いたくないんだから」

 わかるよ。エリスが必死な事ぐらい。けど私だって必死だった。必死だったけど、ダメだった。

「とにかく脱出。まずみんなで生きて帰るらなきゃいけないの。その後でいくらでもアクアの事抱き締めてあげる、受け止めてあげるから。だからこの一瞬だけでも気を取り直しなさいよ」

「なんか緊急事態にぃ、緊急事態が重なってるぅ。お取り込み中ってヤツだねぇ」

「えっ」

 もう聞けるはずのないのんびりな声が耳に届く。エリスと顔を合わせて驚いてから、声のした方向に目をやる。

 地面に黄色いタンポポが一輪だけ咲いていた。その付近から黄緑色の両手が生えてきて、土から()い上がってくる様にフォーレが現れた。

「見事に植木鉢が崩壊しかかってるねぇ。立派なスギの木も真っ黒焦げだしぃ」

 状況がわかっていないのんびりした仕草で、周囲を観察して状況を確かめ出す。

「フォーレ?」

「やだなぁアクア。勿論コピーだよぉ。オリジナルはぁ、無事に咲けたみたいだねぇ。ずっと咲きたそうにしてたしぃ、アクアに見てもらうって願いも叶えられたようだねぇ。満足して枯れられたならぁ、言う事なしだよぉ。お疲れ様ぁ」

 枯れ果てたフォーレを見つけたコピーは、しゃがみ込んで微笑みながらガサガサの頬を撫でた。

 フォーレの枯れた姿って、コピーからはどう映ってるんだろう。淡々としすぎていて、感情のありどころがわからないや。

 コピーはおもむろに立ち上がると、両腰に手をやって笑みを深くした。

「さてぇ。アタイも役目を果たさなくっちゃねぇ。ついてきてよ勇者さん達ぃ。ほらぁ、アクアも行くよぉ」

 ジャス達に声をかけてから、コピーは私とエリスの手を取って杭の方へと近付いていく。

「あっ、ちょっとフォーレ」

「アタイをフォーレって呼んでくれるなんて光栄だよぉ。ズルい事言う様だけどねぇ、アクアは生き続けなきゃイケないんだよぉ」

 コピーは足に力を込めて杭をポイポイと抜きながら、過酷な事を言ってきた。青空が開けて、眼下には森が広がっている。

「そんな。フォーレは勝手に死んでおいて、私にだけそんな事言わないでよ」

 ホントにズルい事、言わないでよ。

 コピーは私たちから手を離す。種を植えてからしゃがんで、両手をつけて力を込める。

「オリジナルが死んでアクアまで死んじゃったらぁ、おとーが立ち直れなくなっちゃうもぉん。生きてくれているってだけでぇ、生きる支えになるんだからぁ」

「お父さんが」

 巨大なタンポポが急成長するのを見上げながら、お父さんの優しく情けない笑顔を脳裏に過らせる。

「そぉ。アタシ達兄弟が一人倒れる度にぃ、死ぬ手前まで傷ついてやつれちゃったんだからぁ。アタイが言うのもお門違いだけどぉ、おとーの事を追い詰めないであげてねぇ。お姉ちゃん」

 イタズラっぽく微笑みながら、コピーは巨大なタンポポの綿毛(わたげ)(むし)り取った。綿毛とは言え一本が私と同じぐらいの長さをしてる。

「ホント、みんな世話の焼ける妹なんだから。いいよ、お父さんの事心配だもん。私が守ってあげる」

 お父さんの事、ほっとけないもんね。お父さん弱いから、すっごく心配だし。

「ありがとぉ。一目でいいからぁ、おとーと顔を合わせてあげてねぇ。オリジナルに変わってぇ、コピーからの約束だよぉ。はぁい」

 私は生きる決意を抱きながら、タンポポの綿毛を受け取ったよ。

 っで、これどうするの?

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