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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第10章 病原のフォーレ
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628 勝利とは

 植木鉢にアクアの慟哭(どうこく)(ひび)き渡る。枯れ果てたフォーレはピクリとも動かず、ただ抱き締められながらアクアの想いをぶつけられていた。

「どうして、どうしてこうなっちゃうんだ」

 勝った。確かにボクたちはあの凶悪な戦略家である魔王フォーレに。だというのに、勝利の余韻どころか地に足をつけない様な空虚を感じてしまっている。

 呆然とアクア達から目を離せないでいると、足音が近付いてきた。両隣に仲間の息遣いを感じる。

「ワイズ、クミン。ボクは、また守れなかった」

 キナハトからの約束も、アクアの願いも、タカハシ家の悪縁も、何よりフォーレ自身も。

「仕方がないさ、相手が強すぎた。覚悟が決まっているヤツほど、厄介な敵はいないよ」

「折れねぇ信念ってヤツは敵に回したくねぇぜ。戦いに勝つだけじゃ諦めてくれねぇかんな」

 (なぐさ)め、なんだろうか。それとも()いているのか。どうしてタカハシ家との戦いでは、自分の弱さを突きつけられるのだろう。

「殺してしまわない様にブレイブ・ブレイド封印し、助けられる様にキュア・ブレイブ温存したんだ。ボロボロに追い込まれたけど、最終的には万全だった。辛抱強く完全勝利の条件を守りきった。そう思っていたのに」

 情けない。自我を失って暴走しても、勇者の信念を取り戻しても、結局ボクは敵の命を奪う事しかできないなんて。

「そう悲観すんじゃねぇよ相棒。ジャスにできなきゃ誰にもできなかったさ」

「仲間であるワシら全員にも責任はあるんだよ。感情を()き出して(ののし)ってみてもいいんじゃないかい」

 悲観(ひかん)のこもった声色(こわいろ)が、不甲斐なさを告白している。感じているんだ。ワイズもクミンも、こうなってしまった責任を。

「そんな権利、ボクにはないよ」

 あぁ、どうして現実は、常に絶望を味合わせてくるんだろう。望んだ願いを打ち壊してくれるんだろう。

 エリスが一人、泣きじゃくっているアクアへと歩を進める。近付いて、何か言いたげに口を開いて、また閉じて。

 フォーレの亡骸に抱きついて鼻を(すす)るアクアに、何も言えずにいる。

 悲しげに眉を(ひそ)め、悔しげに頬を引き()らせ、苛立たしげに奥歯を()み締める。どの感情も同時に混ざり合いながら存在していて、どの感情を吐き出すべきかを迷っている様でもあった。

 エリスがかける言葉を見つけられないでいると、植木鉢が急に揺れ始めた。

 みんな足がもつれて踏ん張り直す中、アクアだけが気にもかけずに泣き続ける。けど揺れた衝撃は本物で、フォーレの身体から小さな何かが地面に落ちたようだ。

「この揺れ、まさか」

「城主を失って崩れだそうとしてるね。魔王城植木鉢が」

「マジぃぜ植木鉢(ここ)。脱出しようにも地上からだいぶ高い場所にあんじゃねぇか」

 このままではフォーレ諸共(もろとも)心中してしまう。そんな事はきっとフォーレ本人が一番望んでいないはずだ。だって、フォーレはアクアが大好きだったから。

「ちょっ、アクア。悲しい気持ちもわかるけど、とにかく脱出しないと死んじゃうから」

 緊急事態にエリスがアクアの肩を引っ張るも、心に届いていない様だった。

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