625 キレイなグラデーション
「うおぉぉぉおっ!」
空元気な雄叫びを上げながらぁ、ジャスが強引に剣を振るってくるぅ。どう避けても隙を晒してくれるからぁ、アタイとしても蛮勇な猛攻はありがたいんだよねぇ。
まぁアタイも余裕なくなってきたからぁ、大袈裟に躱しながら反撃するんだけどぉ。
「きぃえぇぇぇ」
剣に振り回されて体勢が崩れているところぉ、押し倒す様に双掌打を放つぅ。
派手に吹っ飛ぶんだけどぉ、しぶとく立ち上がってくるねぇ。ダメージ入ってないのかなぁ。入ってないのかもなぁ。
荒い息遣いでぇ、剣を支えにしながら水色の目に光を宿して睨み上げてくるぅ。
「どうした、魔王フォーレ。この程度じゃボクは倒せないよ」
「厳しいなぁ。最初にも言ったけどぉ、アタイ弱々なんだからぁ。健闘してるのを褒め称えてもぉ、バチは当たらないと思うなぁ」
挑発に乗ってジャスへと駆け出すぅ。湿っぽい土を踏みしめながら、始動を観察して攻撃を読むぅ。あれぇ、なんか違和感があるようなぁ。
「はぁっ!」
「おっとぉ」
考え事してたから攻撃当たるところだったよぉ。月下美人の影響でぇ、もう動けるのがジャスしかいない状態なんだよぉ。集中しないとぉ。
兜割りを避けながら、裏拳で顔面へカウンターを決めるぅ。当然ジャスを吹き飛ばすんだけどぉ、回転したせいでアタイもフラついちゃったよぉ。
「ありゃりゃぁ。目が回るぅ。なんてねぇ」
もつれる足を止めようとぉ、力を込めて地面に踏み込むよぉ。
バシャって音が響いたぁ。足に冷たさも感じるぅ。見下ろすとぉ、植木鉢が膝下まで浸水してたよぉ。
「水ぅ、なんでこんなぁ」
「今だっ。みんな伏せろっ! ボムズ!」
ワイズが叫ぶと同時にぃ、小さな魔法を放ってきたぁ。
「あっ」
植木鉢は燃えやすい環境に整えてあるぅ。火炎系の魔法を使うと巻き込まれるぞってぇ、アタイの弱点を封じる策を張り巡らせたぁ。それを使われたぁ。
魔力のあまり込めれていない小さな爆発魔法を火種にぃ、植木鉢内が次々と燃え広がるぅ。巨大なスギの木もぉ、枝も葉っぱもぉ、月下美人の花粉さえも燃えていくぅ。
木陰のような薄暗い涼しい空間がぁ、真っ赤な熱に包まれたぁ。
マズいねぇ。万全のアタイでも火を消す手段を持っていないのにぃ。息苦しくもなってきたねぇ。もはやアタイに為す術なしだよぉ。若干アタイにも燃え移ってるしぃ。
ジャスも仲間達もぉ、水の中に身を隠してるぅ。膝下の水を生命線にしてるぅ。
「いいよぉ。最後の根性比べでもしよっかぁ。花粉ってねぇ、水に溶けやすいんだからぁ」
水に溶けた花粉はぁ、燃えずに残ってるはずぅ。ならまだ効力を残しているぅ。まだアタイは咲いてぇ。
「フォーレ!」
正面の水面からぁ、動けないはずのアクアがトライデントを持って飛び出してきたぁ。いつだって真剣でキレイな青の眼差しにぃ、めいっぱいの戦意を込めてぇ。
「アクア」
飛び跳ねる飛沫の青と燃えさかる赤のグラデーションが幻想的でぇ、思わず目を見開いちゃったよぉ。
突き出されたトライデントが左肩に刺さってぇ、勢いのまま地面へ押し倒されたぁ。
衝撃が大きくて痛みがこないやぁ。見上げるとぉ、悲しそうな青のシルエットがアタイに覆い被さってたねぇ。
「わかんないなぁ。月下美人の花粉からどう逃れたのぉ」
「身体が動かなくても水を作り出す事はできたの。花粉が水に溶けやすい事も知ってたから、花粉を弾く水を作り出した。水に身体を浸からせてたら、痙攣もなくなった。今度こそ勝ちだよ、フォーレ」
アクアの水質調査ってそんな事も可能だったんだねぇ。それに花粉を吸い続けてこそのアナフィラキシーショックだったのかぁ。遮断したら治っちゃうんだねぇ。
やっぱりアクアは強いやぁ。でも勝ち名乗りを上げてるのにぃ、泣きながら抱き締めてくるのは違うと思うなぁ。




