624 開花期間
ジャスの攻撃精度が明らかに低くなってるねぇ。剣を避けながら懐に潜り込むなんてぇ、今のアタイでも訳ないよぉ。
「ぐはっ」
ジャスのボディに下から拳を入れてぇ、仰け反ったところにハイキックで吹っ飛ばすぅ。
一回完全回復したっていうのにぃ、もうボロボロになっちゃってるねぇ。月下美人を咲かせただけあるよぉ。想定以上のアレルギー症状を付与してるぅ。
勿論キュア・ブレイブで症状を治された事には焦ったよぉ。けどぉ、日に二回程度の制限しかない必殺技にぃ、渾身の月下美人が負けるなんてあり得ないねぇ。
お仲間さんたちは症状が酷いせいでぇ、援護すらできてなぁい。おかげで勇者一人に専念できるぅ。
クシャミが止まらなくてクミンはツラそうだしぃ、ワイズは涙が止まらなくて視野がボヤけてそぉ。エリスなんかはかゆみを抑え切れてなぁい。
そんでもってぇ、問題はアクアだねぇ。俯せで倒れながらぁ、アナフィラキシーショックに命を蝕まれてるぅ。
ずっと越えたいと思ってたぁ。けどこんな形は望んでないよぉ。死んじゃダメだからねぇ。だって成長を続けているアクアはどんな時でもキレイでぇ、常にアタイに潤いを与えてくれたからぁ。
普段のアタイじゃ釣り合えない憧れだったぁ。月下美人を咲かせてようやく追いつけたんだよぉ。アタイはねぇ、こんな風に見下したかった訳じゃないのぉ。
開花してるアタイをぉ、見てほしいだけなのぉ。だからぁ、萎む前にその目に焼き付けてよぉ。
「まだっ、だ。まだ、ボクは」
アクアから視線を切ってジャスを見る。ボロボロな上に身体も怠くてえらいはずなのにぃ、何度でも立ち上がってくるぅ。
いくらアタイが弱いからってぇ、猛攻に手応えを感じさせてくれないのは落ち込んじゃうなぁ。
もっと痛めつけちゃわないとぉ。
「ってあれぇ」
ファイティングポーズをとってぇ、駆け出そうとしたら全身の筋が引き攣ったよぉ。思わず止まって自分の二の腕を眺めたぁ。まだまだふっくらとぉ、若い黄緑の色を保ってるぅ。
「思ったより早いなぁ。元より開花期間が短い事は承知だったけどもぉ」
次キュア・ブレイブを撃たれたらぁ、アタイに逆転の芽はなくなるだろうなぁ。勇者一行が勝機に気づけるかは定かじゃないけどもぉ。
まぁ、どの道散り際が近いかぁ。もうすぐアタイの時間は終わるんだぁ。
「けどぉ、まだアタイは咲けてるぅ。咲いている限りは戦えるぅ。まだ植木鉢の主役でいられるぅ」
最初から勝つつもりなんてなかったけどぉ、せめて月下美人は凶悪だったって記憶に叩き込まなくっちゃぁ。
「ラストスパートぉ、叩き込むよぉ」
「くるなら、こいっ!」
ジャスはフラつく身体でぇ、剣先をアタイに向けながら啖呵を切ったよぉ。アタイも震えだした身体に活を入れてぇ。拳を作って駆け出したぁ。




