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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第10章 病原のフォーレ
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622 瞬きの回復劇

 ボロボロになるまで殴られた身体が軽くなっていき痛みが(やわ)らいでゆく。耐えがたい鼻のムズムズも治まってきた。粘ついていた口の中から少し気持ち悪さが消える。

 キュア・ブレイブはブレイブ・ブレイドより使用していなかったので効力に不安を覚えていたし、何より病状に効くのかが定かではなかった。けど、上手くいってくれた。

「治った。みんなはっ!」

 植木鉢内を見渡しながら、仲間の症状を確認していく。

「うっとうしくて(たま)らなかったよ。ワシの愛剣に振り回されるのはねえ。もう情けない姿は見せないよ」

 不敵の笑みを浮かべたクミンが、大剣を構えて堂々と立っている。

「健康な身体ってのはこうも清々しい気分にさせてくれんだな。今なら何発でも魔法を放てるぜ」

 杖で肩を叩きながら、ワイズがニヤリと笑う。

「視界良好ね。もう不甲斐ない命中精度なんて晒さないんだから」

 今までのストレスを発散するが如く、エリスは魔王フォーレに向かって弓を引き(しぼ)っていた。

 みんなの体調も万全だ。後、アクアは。

 死に体で痙攣(けいれん)し、倒れていたアクアへと視線を向ける。仰向けからゴロンと半回転すると、何事もない様に起き上がった。

「無事ねアクア。死んでたら叩き起こすところだったんだからバカ!」

「エリス。ソレは怖いな。でも大丈夫、もう私も戦えるから」

 喜色を孕んだエリスの心配を受け、アクアは嬉しそうに不敵の笑みを浮かべてトライデントを精製する。

 一瞬の回復劇。不調からの万全。対して魔王フォーレは、月下美人(げっかびじん)を使った反動で攻撃手段を欠いている。勝った。もう負けようがない。

 ボクたち全員で威勢のいい視線を突き刺す。けど魔王フォーレは状況がわかっていないのか、変わらないふにゃけた笑みを浮かべていた。

「凄いねぇ、キュア・ブレイブだっけぇ。まさかアレルギー症状まで治しちゃうなんてぇ。ビックリしちゃったぁ」

 形勢逆転したっていうのに不動ののんびりさを貫く魔王フォーレ。何も考えていない様だけれど相手は知略の化身。おそらく脳内で逆転の糸口を探しているんだろう。けど残念だったね。どう考えても、もうどんでん返しは起こらない。

「もう悪足掻きを止めて負けを認めるんだ。切り札である月下美人を攻略突破されたフォーレに、もう逆転の手段は」

 ドサリ。

 後方から何かが倒れる音が聞こえて振り向く。うつ伏せでアクアが倒れていた。しかも、回復前と同じように全身を痙攣させている。

「バカなっ。アクア。なんだ、身体が、怠い」

 アクアが倒れた衝撃が収まらぬ内に、ボクの身体も異常に襲われる。剣が重いし、立っているのもツラくなっている。

「ブエックションっ。なんだい。今度は、クシャミが」

「おいおい。今度は目が(かす)み出しやがったぞ」

「っ。かゆいかゆいかゆいかゆいっ!」

 バカな。みんなにもさっきと違ったアレルギー症状が出ているだと。だって、月下美人は攻略したはず。

 驚いて魔王フォーレを見ると、緑の瞳を見開いてキョトンとしていた。

「あららぁ。ちょぉっと予想外かなぁ。アレルギー症状はランダムで発作するはずなのにぃ、またアクアがアナフィラキシーショックを引くなんてぇ」

「フォーレ、今度は何をした」

「何にもしてないよぉ。確かにキュア・ブレイブは確かに全てを治したぁ。けど月下美人の花粉はぁ、今なお植木鉢内に霧散してるのぉ。花粉を除去できたわけじゃないから治ったところでぇ、また新たなアレルギー症状が発症するだけなんだぁ。月下美人(アタイ)を舐めないでよぉ」

 ニマリと笑う魔王フォーレの堂々たる姿に気付かされる。どんでん返しなんて起こっていない。キュア・ブレイブを使って得た逆転が、そもそも勘違いだったのだと。

 ファイティングポーズを取った魔王フォーレが、緑の影を残して接近戦(インファイト)を仕掛けてくるのだった。

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