620 アレルギーの恐怖
「何なのよ。そのアナフィラなんちゃらってのは」
エリスが涙目でフォーレを睨む。声が震えている事から焦りを感じ取れた。
「アナフィラキシーショックは簡単に言うとぉ、命に関わるアレルギー反応ってところかなぁ。迅速な治療をしないと死んじゃうレベルで危険なヤツだねぇ」
焦る様子もなく頬笑みながら説明する魔王フォーレ。倒れているアクアは呼吸すらまともにできていない様で、喉からカヒューカヒューと空気が通る音が鳴っている。
「クシュン。フォーレはアクアが一番大好きな姉妹じゃなかったのか」
あまりにも酷い仕打ちに、声を冷たくして問い詰める。
「勿論アクアが一番大好きだよぉ。けどアタイの月下美人はぁ、アレルギー症状を選ばせてくれないんだよねぇ」
残念そうな口調をしながら、腕を振るってツタを打ち付けてきた。逃げる事は出来るけど、それだけで精一杯。
「防戦一方になるのもいいけどぉ、あまり時間をかけてるとアクア死んじゃうよぉ。ほら反撃反撃ぃ」
こっちの体調が悪いのをいい事に、魔王フォーレが調子に乗って攻め込んでくる。ただでさえ鼻がムズムズして集中しきれないって言うのに、体勢を立て直す猶予さえもないなんて。
「クシュン。ぐはっ!」
クシャミのタイミングが悪いと、攻撃をモロに受けてしまう。ボディに小さな拳がめり込む。
「ぐっ、この。いい加減にしなさいよ」
エリスが必死に弓を引いて矢を放つも、見当違いの方向へ飛んでいく。
「文字通り避けるまでもないねぇ。乱射するよりぃ、一発の精度を高めた方がまだいいと思うなぁ」
「うっさい!」
茶化す様な助言にエリスが怒鳴り散らす。怒り任せに矢を乱射するものの、当たる気配さえ感じさせない。
「ニャロぉ!」
ワイズも魔法で風の刃を放とうとしたのだが、集中し切れていなかったせいで魔王フォーレへ届く前に消えてしまう。
何てことだ。体調ひとつでこうまで戦力がガタ落ちするなんて。
クミンなんかは跳び膝蹴りをもらってから立ち上がれてすらいない。
もうキュア・ブレイブを使うしかない。確かに月下美人は協力だけれど、勇者の力を用いた回復手段ならみんなを完全に治す事が出来るはずだ。アクアだって助けられる。
「ワイズ、エリス。ツラいのはわかるけど、なんとか時間を稼いでくれ。魔王フォーレに勇者の力を見せつけてやる!」
「使わせないよぉ。溜める時間なんて与えないからぁ」
魔王フォーレはワイズとエリスを無視し、ボクに攻撃を集中させる。確かにボクたちは実力を発揮できない状態だ。けど、勇者一行の底力を舐めるなよ。




