618 開花
痛たぁ、左腕ザックリいっちゃってるよぉ。このタイミングでアクアに攻撃されるのは誤算だったなぁ。
右手で傷口を押さえてるんだけどぉ、当然そんなんじゃ止められなぁい。赤い血がポヤポタと地面へ落ちるぅ。
アクアの考える事なら読めるからぁ、いいタイミングで手傷を負うつもりでもあったんだけどねぇ。こんな早々にピンチに陥るつもりはなかったなぁ。
横っ腹に放った鉄球の一撃はぁ、いかにアクアとはいえ無視できないダメージだったぁ。いずれは戦いに復帰すると思ってたけれどぉ、予想より遙かに早かったぁ。
何より不意に放たれた破れかぶれの特攻はぁ、アタイの読みにはなかったぁ。
たまたまアタイが近くにいてぇ、しかも背後をとられる形になっちゃってたのがいけなかったねぇ。
湧いて出てきた攻撃に対処しきれなかったぁ。
険しい戦いの中でアクアが成長してたのもそうだけどぉ、それ以上に豪運を引き寄せるモノを持ってたのが大きかったかなぁ。
腕の痛みに耐えながらぁ、植木鉢を見渡すぅ。たくさん成長させたはずのコピー達はぁ、瞬く間に殲滅されたぁ。勇者達がアタイを囲んでるぅ。
もう一つの誤算はぁ、コピー達がアタイのダメージに大きく動揺しちゃった事だねぇ。アタイを気にかける様に品種改良は施してきたけどぉ、あんな露骨に反応しちゃうとは思わなかったよぉ。
事前にダメージを受けた際の反応を確認してなかったのがいけなかったかなぁ。
右手の平を開いて見下ろしてみるぅ。ふっくらと膨らんでいる黄緑色の二の腕をぉ、赤い血が彩っているぅ。
あははぁ。どっちにしろこの傷じゃぁ、アタイがオリジナルだってバレバレだったかぁ。コピーたちはバイオレンスにならない様に血液を作ってなかったからねぇ。
「約束だよ、フォーレ。もう降参して」
アクアだって横っ腹の痛みが酷いはずなのにぃ、心配そうに青い瞳を揺らしながらアタイを見つめてくるぅ。
「優しいなアクアはぁ。かなり好き勝手やったのに手を差し伸べてくれてぇ」
アクアの事だからぁ、アタイも死んだらすっごく悲しんじゃうだろうなぁ。ごめんねぇ。その約束ぅ、万が一が起きない限りぃ、守るための条件をクリアできないんだぁ。
勇者達を眺めるとぉ、みんなまだ警戒したまま睨み付けてたよぉ。嬉しいねぇ、まだアタイが戦えるって信じてくれてるんだもぉん。全力じゃなきゃつまらないよぉ。
警戒しながらぁコピーフォーレの種を数えるぅ。あと四人分かぁ。使ったところでだねぇ。
「認めてあげるよぉ。アタイが全力を出して叶わなかった時ぃ、まだ手遅れじゃなかったらぁ、アクアと一緒に余生を生きるってぇ」
改めて約束の条件を口に出すぅ。アクア達は含みに気付いたみたいでぇ、警戒心を強めたよぉ。
「まだコピーが残ってるようだね。いいさ、全部叩き潰してやるよ」
「クミンは勇ましくて困るぜ。まっ、オレも慣れてきたがよぉ」
クミンが大剣を構えながらジリジリと距離を詰めてくるぅ。反対にワイズは杖を構えたまま距離を取ったよぉ。
「悪あがきに付き合ってあげるから、さっさと全力を吐き出しちゃいなさいよ。アタイ達の強さと想い、認めさせてやるんだから」
「もっとも、もうフォーレを白衣まで近付けさせないけどね。無情かもしれないけれど、これが戦いなんだ」
エリスが顔を引き攣らせながら啖呵を切ったよぉ。必死な姿がアクアを気に入らせたんだろうなぁ。
ソレでもってジャスは無情なんて笑える事を言い出したねぇ。自らブレイブ・ブレイドを封印しておいてぇ、容赦しないとかおかしいよねぇ。
植物を通じて情報を掴んだたからこそぉ、付け入らせてもらってるけどぉ。
「フォーレ」
「アクア」
そんな悲しそうにしないでよぉ。これからする仕打ちの事を考えるとぉ、ちょっと躊躇っちゃいそうじゃぁん。けどもう引くなんてできないよねぇ。
「ちょっとピンチになっちゃってるけどぉ、アタイはまだ切り札を残してるのぉ。コピー達はただの前座でぇ、パフォーマンスみたいなものかなぁ」
緊張するなぁ。でも一世一代の晴れ舞台だもぉん。堂々と咲かせて魅せないとぉ。
「そろそろ咲こっかぁ。月下美人」
全身全霊だよぉ。アクア、死なずに受け止めてよぉ。絶対だよぉ。




