617 憧れを焦がれ
脇腹が酷く熱い。なんの洗練もされてない鉄球がここまで破壊力を秘めているなんて。
土を握りしめて見上げる。フォーレの調子に乗ってる声が常に聞こえる。ジャス達が少しずつ追い詰められていく。
「ダメ、まだ倒れてなんていられない」
手に力を込めて起き上がろうとするんだけど、ズキリとくる脇腹の痛みに身が沈んでしまう。
「がんばるねぇ、アクア。けどモロに鉄球入ったからツラいでしょぉ。まだ休んでてもいいんだよぉ」
私の側でしゃがみ込むフォーレ。頭に盆栽が生えてるから明らかにコピーだね。でもその声で言われたら、お言葉に甘えたくなっちゃう。
「アクアの強さは本物だよぉ。槍捌きは見てて惚れ惚れするしぃ。憧れるほど強かったぁ。オリジナルフォーレだって認めてくれてるよぉ」
そっか、認めてくれてるんだ。あの優しくて頭がよくて、私の手を引いて微笑んでくれていたフォーレが。
「後は勇者達に任せよぉ。大丈夫ぅ。仲間なんだから信じちゃいなよぉ」
そうだよね。頼れる仲間がいるんだもん。信じるのもアリだよね。
「けどさ、そうやって諦める私を、フォーレは失望しちゃうよね!」
新たにトライデントを作り出し、見下ろしてくるコピーフォーレへ寝転んだまま突き伸ばす。胸を貫いてなお、微笑みを絶やさない。
「ホントがんばり屋さんだなぁ。やっぱりアクアの事好きだよぉ」
「私の方がフォーレの事、大好きなんだから。フォーレよりも、私はフォーレの事を憧れてるんだから。だからっ!」
酷い痛みを、歯を食いしばる事で押し殺す。根性で立ち上がって近くで背を向けているフォーレへトライデントを振り回す。
「私はフォーレに少しでも追いつきたいっ!」
「あヤバぁ」
肩越しに振り向いて緑の瞳を見開くフォーレの、左腕を切り裂いた。
「痛ぁっ!」
赤い血を流して傷口を押さえるフォーレ。
「ほん、もの?」
破れかぶれの一撃だった。まさかオリジナルフォーレにダメージを与えられるなんて。
猛攻していたコピーフォーレ達も本物にダメージが入った事に驚いた様で、一斉にオリジナルフォーレへ注意を向けた。
「ナイスよアクア!」
エリスは褒めながら、硬直しているコピーフォーレを次々射貫く。クミンは大剣で片っ端から斬り捨て、ワイズは土魔法で潰し貫く。ジャスだって千載一遇のチャンスを逃さない。
「参ったなぁ。アクアは倒したつもりだったからぁ、警戒し損ねたぁ」
汗を垂らしながら顔を顰めるフォーレ。一瞬の硬直がコピーフォーレ全員を奪い去り、形成を逆転させた。
思ったよりも呆気なかったけど、ようやくフォーレに追いつけた気がした。
「はぁ、はぁ。決着だよ、フォーレ」
手傷を負い、孤立したフォーレへ勝利の宣言をしたよ。




