615 武器は投げ捨てる物
「気軽に増やすんじゃねぇよ。こっちが数減らすのにどんだけダメージ受けたと思ってんだ」
ワイズが文句を言う様に、既にみんな傷だらけだ。着実にコピーフォーレの数を減らしていたから優位に立っていると思っていたけど、いくらでも増加するとなると話が違ってくる。
現にオリジナルフォーレは、まだ無傷なのだから。
「酷いなぁ。対勇者戦に開発したんだからぁ、褒めてくれてもバチは当たらないよぉ」
「褒めて数を減らすなら、いくらでも褒めてやるよ」
「ソコはがんばってねぇ」
再びフォーレ達の猛攻が始まる。嫌がらせの様な波状攻撃にボクたちはバラバラになって戦わされる。
のんびり屋のわりに素早い身のこなしで放たれる格闘。コピーの捨て身だからこそ付け入る隙があるけど、一歩間違えば致命傷を受ける危険もある。
一対一でさえ気が抜けないのに、後方や遠距離からの不意打ちにも気を回さなければいけない。体力以上に集中力が削られる。
「ちょっと。そんなの急に使わないでよ!」
エリスの仰天する叫びが聞こえた。この切羽詰まった状況で心配なんてしていられないのだけれど、ゾッとする気配を感じて視線を向ける。
何かの攻撃を躱す様にジャンプしたエリス。
「なっ!」
エリスの影に隠れていた攻撃、円を描く様に飛来する鎖が姿を現す。的という名の遮蔽物を失った鎖は、ボクを目がけて飛んできた。
「こんな鎖どこから」
跳び伏せて鎖に潜り込んだボクは、間一髪で避ける事に成功する。
「鎖はアタイが最初に装備してたやつだよぉ。忘れちゃダメだよぉ」
身につけといて脱ぎ捨てた武器か。忘れた頃に使用してくるとは。
理解しながら目を疑った。飛び去るはずの鎖をフォーレは、腕から伸ばしたツタでキャッチ。勢いを増す様に回転しながら再び投げ飛ばそうとしている。
「武器ってぇ、装備するだけが取り柄じゃないんだよぉ。時には道具扱いしなくっちゃぁ」
ツタを離したフォーレはあらぬ方向へ鎖を放った。進行の先に、アクアがコピーフォーレの攻撃から跳び退き着地する姿があった。
「アクア避けろっ!」
「へっ。チャン・○ーハンの鎖っ!」
驚きながらトライデントを縦に構えて突き出したが、柄を軸に鎖は両端から勢いよくアクアをムチ打ちにした。
「痛っ、うぅぅ!」
歯を食いしばって膝をつくアクア。ダメージがデカい。
「ほらぁ。お仲間を気にしてる余裕はないよぉ」
コピーフォーレが跳びながら上にツタを伸ばした。ツタは枝を経由して下へと延び、捨てられていた鉄球に絡む。
「よいしょぉ」
更に二人のコピーフォーレが、ツタを伸ばしていて宙ぶらりんになっていたコピーフォーレに抱きついた。三人分の体重は鉄球の重さを超え、シーソーのように持ち上がる。
武器の使い方が予想外。
三人で着地したコピーフォーレは力を合わせてツタを上下する。ブランコの原理でも使っているのか鉄球はドンドン勢いをつけてブンブンと振り回される。
「コースを作るねぇ」
頭から笹が生えたコピーフォーレが地面に手をつくと、竹でできたレールが盛り上がってきた。丁寧にボクの方に伸びている。
「狙いはあからさまにボクか」
「いっけぇ。鉄球トルネードぉ」
ツタの強度が勢いに負けてブチっと切れると、竹製のレールに乗り、勢いを加速させながらボクへと迫ってきた。
「いくら威力が高くても、こんなわかりやすい攻撃じゃ当たらないよ」
タイミングと方向が一目瞭然なんだ。躱すのも容易。
スポンと勢いよく跳んでいく鉄球。
「勿論そのまま終わらないよぉ。期待には応えなくっちゃぁ」
複数のフォーレがツタを伸ばすと、網の様に編んで鉄球を受け止める。
「跳ね返すつもりか」
鉄球の勢いは凄まじく、ツタの網を突きやぶらんほど引き延ばしている。がその分跳ね返る威力も凄そうだ。
「そう思ったでしょぉ」
ブチっと音を鳴らしてツタが鉄球に引き千切られた。威力を落とされた鉄球はそのまま、別のフォーレに対応していたワイズの元へと落下していく。
「ワイズっ!」
「マジざけんなっ! 網で受け止めといてこっち来るとかどんな不意打ちだぁ!」
驚愕しながら見上げるワイズへ、鉄球は無慈悲に落ちていった。




