613 木を隠すなら
「それじゃぁアタイ達ぃ、アクア達を驚かせよぉ」
「おぉ」
緩い号令にこれまた緩い返事をしたフォーレ達は、口調とは裏腹な俊敏さで迫ってきた。
素手で接近戦を挑むフォーレ達。種を蒔いて植物による遊撃をしてくるフォーレ達。回り込んで囲み込もうとするフォーレ達。
「くっ、みんな手分けして迎撃するぞ」
個の強さと数の強みの両方を生かした戦術。チームプレイなんて簡単に崩されるのは明白だ。ならばボクたちも個を生かした戦いに切り替えなければならない。じゃないと、チームの隙を突かれて一瞬で崩壊しまうだろう。
「魔法使いを孤立させやがって。付き合ったらぁ!」
ワイズが自ら距離を離しながら、迫り来るフォーレに杖を一振りして風の刃を放つ。
「あっ、残機が減っちゃったぁ」
呆気なく胴体を真っ二つにされたフォーレが、呆けた表情で最期の言葉を漏らす。
「へっ、思ったより呆気なぁ!」
崩れ落ちるフォーレの身体を貫きながら鋭いツタが伸びてきてワイズに迫る。
「ちい!」
伸びているツタの中間をクミンが咄嗟に斬り捨てると、勢いを失いフォーレの身体と一緒に地面へ落ちる。
「おいおいおい。初っ端からやってくれるじゃねぇか。自分のコピーを捨て駒ってか、目眩ましに利用するなんてよぉ。頭イカれてんじゃねぇのか」
「悪態つくなんて余裕だねぇ」
「クソぉ!」
冷や汗をかきながら息を荒げていたワイズの後方から、新たなフォーレが襲い来る。なんとか対応しているが息つく暇もない。そしてサポートに回る余裕もない。
「ちょっと手数が多いじゃないのよ。もうちょっと人数減らしなさいよ!」
「アタイ達を減らしたいならぁ、がんばって減らしてねぇ。複数のコピーフォーレよりぃ、オリジナルフォーレを倒した方が手っ取り早いと思うけどねぇ」
「だったらわかりやすく目印でもつけなさいよバカっ!」
伸びてくるツタや高速で乱射される種を躱しながら、矢を放つエリス。フォーレを一人仕留めている様だけれど、まだまだ数は多い。
オリジナルの特徴は頭に生えているツタだ。コピー達はパンジーやデイジーといった花を咲かせている。けど同じようなツタを生やしたフォーレも複数確認できている。数を絞る事ならできる。
「忙しなくて堪らないねえ。知恵を持った団体は苦手だよ」
「コピー達はそれほど賢くないよぉ。人工栽培だとどうしても限界あるからぁ」
「冗談はもうちょっと弱くなってからいいな!」
クミンも一回転の横薙ぎで一体を真っ二つにした。けど斬られたフォーレの肩に足をかけて別のフォーレが跳びかる。
「あぁ、アタイを踏み台にぃ」
「味方相手に使うセリフじゃないと思うなぁ」
「ふざけんのも大概にしなっ!」
緩い口調で殴り下ろそうするフォーレを、クミンは二回転目の斬撃で斬り捨てる。
「隙ありぃ」
「あぁもう!」
体勢が完全に崩れきったところに別方向から種の弾丸が迫る。悪態しかつけず反応できないクミン。
「させないよ、フォーレ」
アクアが遮る様に間へ跳び込み、トライデントで全ての種を斬り捨てる。
「アクアかっこいぃ。でもアタイも負けないからぁ」
「コピーの接近戦とかワンパターンじゃないかな!」
アクアへ接近戦を挑むフォーレへ、トライデントの薙ぎ払いを返す。さっきまでのパターンならコピーが斬り捨てられて本命が飛んでくるはず。大丈夫、アクアなら対処できる。
「酷いなぁ。アタイがオリジナルなのにぃ」
フォーレは反射的に跳び退いてトライデントを躱し、足下から複数の根を伸ばしてきた。
「あぁぁぁぁあっ!」
「アクアっ!」
トライデントを振り抜いた体勢で、寝に胸を数ヵ所貫かれてしまう。
動きが他のフォーレと違う。まさか本物が接近戦を仕掛けただと。
よく頭の植物を見ると、本物が生やしているツタが存在していた。
「木を隠すなら森だよねぇ。あでもぉ、コピーたちは人工だから林かぁ」
イタズラが成功した様な笑みを浮かべたフォーレは、知的に緑の瞳を輝かせた。




