611 蕾の時間
「うわぁぁぁぁぁあっ!」
みんなして絶叫を上げながら滑り、やわらかい地面へと転がり落ちる。
酷い目に遭った。ここは。
周囲を見渡すと薄暗い空間が広がっていた。カーテンを閉め切った昼間の部屋のような薄暗さは、視界を少し落とす程度だろう。
見上げるとスギの葉が日光を覆い隠している。不思議な事に頑丈そうな枝も広がっていた。
周囲は杭が打ち込まれていて外と完全にシャットアウトしている。空間こそ広いけど、完全に閉じ込められていた。
そして植木鉢の中央にはド太いスギの幹が生えている。とんでもない存在感だ。そして人を隠すにはこれ以上ない場所でもある。
「アタイの植木鉢は楽しかったかなぁ。めいっぱい歓迎したんだよぉ」
「なっ!」
スギの幹の方を警戒していたら、上の方から声をかけられた。視線を向けると、枝から少女が下りてくる。
「ちょっと、ウソでしょフォーレ。なんで武器がチャン・○ーハンなのよ!」
魔王フォーレの姿を認識したアクアが思わずと言ったように声を上げた。
ボサボサした深緑の髪に緑色の眠そうな瞳。肩からは白衣を羽織っていて、その上に鎖を装備していた。右手には重そうな鉄球が存在感を示している。
「みんな何かしら武器を使ってたからねぇ。アタイも意表を突けるような武器を用意したんだぁ。強そうでしょぉ」
鉄球を両手で上げてニマニマと笑顔になるフォーレ。身体に鎖を装備する事に何の意味があるのか全く不明だが、シンプルに強そうな鉄球には注意がいってしまう。
「厄介な得物じゃないかい。丸くて重くて頑丈。武器破壊は容易じゃないよ」
「どこまでも予想外なブツを用意してくれやがって。やっぱ気を抜けねぇじゃねぇか」
クミンとワイズが警戒すると、フォーレは笑みを浮かべたまま鉄球をポイ捨てした。
「はい?」
誰の声だっただろうか。かなりマヌケな声色が上がる。フォーレはお構いなしに身体に装備していた鎖も捨てた。
「ちょっと、フォーレ」
「アクアごめんねぇ。用意はしたんだけど鉄球重くてぇ。それに使い慣れてない武器は危険だから装備する気は端からないんだぁ」
あっけらかんとフォーレは、ボクたちをコケにする言動をした。更に肩にかけていた白衣をふわりと脱ぎ捨てながら笑む。
「アタイはフォーレ。フォーレ・タカハシぃ。弱々だからぁ、お手柔らかにお願いねぇ」
物腰柔らかにウインクをすると、緑の光を放って植物を混ぜた姿へと変貌する。髪の様に生える葉っぱの最頂部から垂れるツタ。黄緑色の肌に存在感のある胸。
結構じゃないか。最初から全力なんてね。
ボクたちは合図もなしに武器を構えたよ。




