610 上げて下げる
植物系魔物の刺客を退け、植木鉢に巻き付いているツタを登って行く。魔王フォーレが待つであろう、スギの木が植わっている地面の部分を目指して。
しかし予想外な事に、ツタは地面の部分を通り越して更に上へと続いていた。
「おいおいどういう事だよコレは。枝葉の部分って言やいいのか。足場としては心許ない所まで誘導されてんぜ」
植木鉢の縁を越えると、遮断するように杭が隙間なく打たれているのを発見する。
「ホント弄んでくれるねえ。けどワシもそろそろ我慢の限界なんだよ。強引に抜け道をつくらせてもらおうかい!」
クミンが青筋立てながらワイズを下ろすと、大剣を杭へと振り下ろした。深々と刺さるのを見て手応えを感じる。クミンなら何度かやれば通路を切り開ける。
「火炎魔法が使えりゃ手っ取り早ぇんだけどな。ここは風魔法の出番だろ」
ワイズも風の刃を撃ち出して杭を切り刻む。
「はっ。さすがの魔王フォーレも唐突な力業には為す術ないみたいね。植木鉢に用意した策略を無に還されるなんて憐れでしかないわ」
エリスもようやく一矢報いれそうな状況に悪い笑みが浮かんでしまう。
ボクもいい加減付き合わされるのにうんざりしていた。虚を突いて反撃といこうか。
一転攻勢の血気が溢れている中、アクアだけが不服そうに唸っている。
「どうしたのよアクア。まさかフォーレに同情してんの。そりゃアクアにとっては大事な妹かもしれないけど、アタシ達もいい加減うんざりしてるの。割り切りなさいよ」
「別にフォーレを出し抜く事に不満はないよ。けどね、こんな抜け道をホントにフォーレが許してくれるのかがどうしても引っかかるんだよね」
人差し指を口につけて首を傾げるアクア。まさかフォーレもボクたちの急な対応に対処できるはずがっ。
「なっ、みんな。急いで登るぞっ!」
高を括りながら足下を見てみたら、足場のツタが下方から萎れてきていた。このペースじゃ杭を開通させるより先にボクたちが地上へ真っ逆さまだ。
「さすがフォーレ。急かし方も容赦ない」
「言ってる場合じゃないでしょ。とにかく走るわよ!」
クミンも即座にワイズを抱え上げて走り出す。
必死に登るもツタの萎れるスピードが早い。追いつかれると思った瞬間、スギの枝葉への入り口を見つけ出す。
「もうすぐだ。一気に駆け込むぞ!」
ボクの号令もみんなの返事も走り捨ててポカリと空いている入り口へと飛び込んだ。
「間に合っっっっ、たぁぁぁぁぁあっ!」
安堵の声を上げるのも束の間、枝葉の中に用意されていた斜面をボクたちは滑り落ちる事となる。
ツルツルと滑る足場を右へ左へ振られながら抵抗さえできずに高速で下りて行く。
わけがわからないが、ひとつだけわかる事がある。とにかくボクたちはどこまでもフォーレの策にハメられていると。




