609 二足歩行
時折襲いかかってくる根を躱しながら進んでいると、洞窟の先から光が射し込んできた。土中エリアを抜ける。いよいよ魔王フォーレとのご対面だろうか。それとも。
「眩しい。けどいい景色。森を上から眺めるとこんな感じなんだね」
「まぁ景色がいい事は認めるわ。けど植木鉢の外に出るのはどういう了見よ!」
視界いっぱいに広がる森を眺めながらエリスが怒鳴り散らす。
「ジャス。ここまで一本道だった気がするのはワシの気のせいかい」
「いや、分岐なんて一ヶ所もなかったよ」
「ならどうして、進む道がないのかねえ。まさか魔王フォーレは策略だけでワシらに勝つつもりじゃないだろうね」
魔王フォーレは自称弱者を宣言していたし、策略に関して得意なのは言うまでもない。けど戦わずして勝つなんて選択は取らない気がする。
「あっ、よく見ると太いツタが螺旋階段のように植木鉢に巻き付いて上へ延びてる。たぶんコレが進行ルートだよ」
アクアが外まで近付いて覗き込んだ事で、用意されていた道を発見する。
「用意されてんのはいいけどよぉ、かなり危険な道じゃねぇか。オレを落とすんじゃねぇぞクミン。後揺らしたり衝撃を与えたりすんのもNGだかんな」
「要求の多いお姫様だね。外へ放り投げてやろうかい」
「お前を死んでも離さねぇぜ」
使い方さえ間違えなければ凄くかっこいいセリフなのに。残念な気持ちを抑えられないよワイズ。
危険を承知でツタへと足をつけ、緩やかな斜面を歩いて上を目指しす。緑の匂いと風を感じる。まさか外から植木鉢を登る事になるとは。
時折ツタを伸ばして迫り来る花を斬り捨てながら進んでいると、少々強い存在感が立ち塞がっている事に気付いた
「ジャス。強めの魔物が待ち構えてるよ」
「みたいだね。油断しなければ問題なさそうだけど、場所が悪い。気を引き締めよう」
剣を握り直すと、正面から二足歩行のヘチマが跳び跳ねてきた。両手には刃物がついたツタを持っていて、ブンブン振り回しながら飛ばしてくる。
「ちょっと、フォーレ」
アクアの驚きようが気になるが戦闘に集中する。攻撃を避けると刃物は床にグサリと刺さったが、ツタを引く事によってヘチマの手元へと戻って行く。武器としては鎖鎌みたいなものだろう。
「ならばツタを斬ってしまえば何もできまい」
ヘチマは他の魔物より動きがよかったけれど、ボクらほどじゃない。すぐに武器破壊をし、身体を真っ二つに斬り捨ててやった。
次に現れたのは二足歩行のキノコだ。背が小さい。分身のような幻影で攻撃してきて動きが読みにくい。が動きさえ読めれば大した事はない。
更に二足歩行のナルシストなバラ。二足歩行で踊りながら現れたタマネギ。二足歩行で細身のヒマワリと連戦する。
洞窟内でのサボテン責めに比べて、統一性がないのが少し気になった。あまりに両極端な魔物配置なのだが、ただの気まぐれだろうか。強いて言うならみんな二足歩行だったぐらいか。
「フォーレ。私もう進むのが怖いよ。次は何を模してくるつもりなの」
ただ事情を知っていそうなアクアだけが遠い目をしていたよ。




