604 満開前夜
大きなスギの木に登ってぇ、太めの枝に座って足をブラブラさせながら夜空を見上げるぅ。枝葉の隙間から三日月がギラギラ輝いてるよぉ。
「静かでいい夜だねぇ。明日も天気になるといいなぁ」
森の木々が教えてくれたぁ。アクアたちがヴァルト・ディアスへ到着したことぉ。早々に明日ぁ、アタイの植木鉢へ乗り込んでくることぉ。
「花粉症が脅しになって急がせちゃったなぁ。せっかくのアタイの咲きどころだしぃ、互いに万全じゃなきゃつまらないよねぇ」
アクアたちの実力を花粉症で抑えたくないからぁ、花粉の放出を急いで止めたぁ。叩き潰すのが目的じゃないからねぇ。
「でもヴァルト・ディアスを花粉で侵略してからぁ、ここまで長期的に花粉症で苦しめる事になるとは思わなかったなぁ」
完全に誤算だったぁ。アタイ的にはもっと早い段階で勇者と当たるつもりだったしぃ、サブリミナル的な誘導手段もとるつもりでいたぁ。
子供の死っていうメンタルダメージがおとーにはデカすぎたぁ。おかげでアタイも早々には死ねなくなったぁ。お薬とコミュニケーションによるケアはぁ、アタイにしかできなかったからぁ。
エルフの方々も大変だっただろうなぁ。長引いたせいで死人も出かかってたしぃ。被害者が出たらキナハトがかわいそうだからぁ、影ながら支援もしたんだよねぇ。ヴァリーやデッドぐらい残虐だったら気にしなかったかもだけれどもぉ。
「できうる限りの準備はしたしぃ、道具だって取り揃えたぁ。おとーへのフォローもしてきたしぃ、やり残しはないねぇ」
指折り数えながらひとつずつ確認をするぅ。戦うまでの期間が長すぎたおかげでぇ、装備や道具を更新できたぁ。もう未来を見据えるのは終わりだねぇ。周囲への影響の配慮だって要らなくなるぅ。目の前の今にだけ集中できるぅ。
「もうすぐ咲けるぅ。なんの気兼ねもなくぅ。全力でぇ」
白衣の袖をまくってで、右の二の腕を見下ろすよぉ。左手で押すとプニプニと動くぅ。肉付きが程よくてしなやかさも備えているぅ。水分が常に通っていてぇ、潤っている事がわかるぅ。
「普通の女の子の右腕だねぇ。か弱くてぇ、若々しぃ」
腕を押したままグーパーするとぉ、神経と筋肉の動きを感じられるぅ。力強さだって申し分ないねぇ。思わず笑みが漏れちゃうよぉ。
「いよいよ明日かぁ。楽しみだなぁ。ごめんねアクア。アタイめいっぱい甘えちゃうからぁ」
咲くのはきっと明日の昼間になるだろうなぁ。せっかく月下美人なんだからぁ、できたら夜に咲きたかったよぉ。




