594 根回し
もう最後になるからぁ、ススキにも挨拶しとかないとねぇ。行動の予測はバッチリだからぁ、朝ここを通るのを待つばかりぃ。
夜明け前から待ち伏せてぇ、強くなっていく陽の光を浴びながらウトウトするぅ。
ぽつりぽつりと道を人影が現れてぇ、陽が昇っていく程に通行人が多くなっていくぅ。
そしてまだ早い時間にぃ、ススキが通りすがろうとしたよぉ。
「おはよぉススキ。待ってたよぉ」
「え?」
通りすがって行こうとしたススキに声をかけたらぁ、振り向きざまに驚きながら見下ろしてきたよぉ。
「よいしょぉ」
「ちょ、フォーレ。公園の花壇から出てこないでよ。心臓に悪いじゃない!」
花壇に生えている草花に紛れた甲斐もあってぇ、朝一番のドッキリを決められたよぉ。土の中から這い出ながらぁ、ススキに近寄るぅ。
「アタイも勇者と戦う番が来たからぁ、別れの挨拶にきたのぉ」
ニマリと笑顔を向けるとぉ、ススキは警戒するように後退ったよぉ。心外だなぁ。
「フォーレも行くのね。どいつもこいつも、ちょっとは留まったらどうなのよ」
悪態をつきつつ心配もしてくれるぅ。アタイ達にはない魅力だねぇ。
「留まる選択なんてとっくに捨てたからなぁ。ススキは寂しぃ」
「別に。好き勝手かき乱すやつがいなくなってホッとするぐらいね」
フンと鼻を鳴らされちゃったよぉ。心臓に悪いのも本当だからねぇ。
「ひねくれ者だなぁ。そんなススキにぃ、お薬あげちゃぁう」
白衣のポケットから薬を取り出してぇ、ススキへと差し出すよぉ。
「出た。フォーレ印の得体の知れない何か」
警戒心を剥き出しにしながら薬を凝視されるぅ。
「ただの媚薬だから心配しないでよぉ。おとーを慰めるときに使ってねぇ。忘れられない夜になるからぁ」
「とても受け取りたくないんだけど」
「意地悪言わないのぉ。あと一回おとーはぁ、気持ちをドン底まで落とすんだからぁ。ススキの力でぇ、また生きる気力を取り戻させてほしぃ」
憂いを伝えるとぉ、たっぷり時間をかけてから渋々お薬を受け取ってくれたよぉ。
「ホント、あんた達にはイヤになるわよ。いつだって重い想いを押し付けてくれるんだから。ところで二回じゃないの?」
「一回で充分だねぇ。最後のもう一回はぁ、おとーの戦いの間近に訪れるからぁ。その瞬間まで心が保てばぁ、おとーは魔王人生を終わらせられるぅ」
おとーもあとちょっとで咲き時が訪れるぅ。けど咲かせる瞬間までは気を緩めれないからねぇ。チェル様とススキのケアにかかってるんだよぉ。
「責任重大じゃないの。だからフォーレは怖いのよ。とことんいじめてくれちゃって」
「頼ってる証だと思ってねぇ。今のススキにならおとーを任せられるからぁ」
おとーを殺そうとした小娘だからこそかねぇ、気を許しあえるようになれたのはぁ。
「そこまで言われたらコーイチ盗っちゃうから。後で泣いて詫びるといいわ」
ススキは媚薬をポッケにしまいながらぁ、ツンと首を横にしたよぉ。
できうる限りの根回しも終わったぁ。さぁてぇ、折を見てヴァルト・ディアスに向かおうかなぁ。




