591 種蒔き
アクアから次のターゲットがアタイになったって聞いて数日ぅ。
二階建て一軒家の実家のぉ、おとーの部屋でアタイは特製のお薬を飲んでもらってたよぉ。
「なんか思ったよりマズくねぇな。いやマジぃのは間違いねぇんだけど」
「思ったより精神落ち着いてたからねぇ。普段より薬を弱めに作れたよぉ。ススキ様々だねぇ」
「わかっちゃいるけど、フォーレにはホント筒抜けだよな」
ニッコニコの笑顔で茶化すとぉ、気まずい表情を返してくれたよぉ。感情が出るのはいい事だねぇ。
「おかげでアタイもぉ、安心して勇者達と戦う事が出来るぅ。やっと咲かせる事が出来るぅ。アタイの月下美人をぉ」
しみじみと呟くとぉ、おとーの目が真剣に尖ったぁ。
「どうしても使うのか」
「使わなきゃ損だもぉん。叶うならおとーにもぉ、咲いてる姿を見せたかったんだけどねぇ。機会があったらぁ、後からアクアに聞いてねぇ」
アタイの切り札でぇ、最後の生き様だもぉん。悔いのない戦いにしなくっちゃぁ。
「そっか。頑張れよ」
視線を逸らして俯きながら応援してくれるぅ。親不孝な事をしてるのにぃ、止めないでくれるから申し訳ないねぇ。
「のんびり戦ぁう。それにおとーの背中を押したのはアタイだからねぇ。死地へ追いやっておいて自分は悠々となんて詐欺でしょぉ」
「関係ねーよ。失って初めてわかったんだ。何が何でもとにかく生きて欲しいって。願っちまったんだ、お前らの未来を」
アタイ本当に悪い子だなぁ。茨の道を進ませてぇ、死ぬほど傷ついてぇ、それでも這い上がって進もうとしてるおとーを眩しく思うだなんてぇ。
けど怠惰な土に眠ったぁ、命懸けで誰かを守ってみたいって種子に気付いちゃったからねぇ。どう成長するか育てたくなっちゃったんだぁ。
最後まで見守れないのが残念だけどねぇ。
「未来よりも今だよぉ。花の命は短いんだもぉん。将来を見据えてなんて言葉があるけどぉ、将来のために今を見殺しにし続けてたら本末転倒だよぉ。十年後もそのまた十年後を思ってぇ、十年後の今を殺し続けるって繰り返しだからねぇ」
「ブラック時代を思い出させてくれるじゃねぇか」
「望む未来なんてぇ、次の休日ぐらいの近さで丁度いいんだよぉ」
人生を咲かせるチャンスなんてぇ、本当に短いからぁ。
アタイはぁ、幾分か痩せ細ってるけどまだ気力が残ってるおとーに正面から抱きついたよぉ。どうせだから豊満に実っちゃった物を二つ押し付けちゃぁう。
「ちょっ、フォーレのソレは他の娘よりシャレにならんからな」
「まぁまぁ、スケベ心は大事だよぉ。萎えちゃったら種蒔き出来ないもぉん。ススキとチェル様の子供ぉ、アタイ達の弟妹を作っとかないと許さないからねぇ」
しどろもどろになりながらぁ、顔を真っ赤にさせちゃってるぅ。原因はどこにあるのかなぁ。
「変な事言って茶化すんじゃねぇっての」
「本気だよぉ。このままだとアクアが寂しい事になるからぁ、血の繋がった家族を増やしておいてねぇ。おとーにしか出来ないからねぇ」
微笑むとぉ、驚いた顔して見つめてくれたよぉ。半分本音なんだからぁ。もう半分は建前だけどねぇ。チェル様とススキに縋ってる間はぁ、おとーは生き繋いでくれるからぁ。
「もう三十後半に突入したおっさんなんだけどな」
「造精剤なら任せといてよぉ。よければ媚薬も渡すよぉ」
「もう既に作ってあるような言い方すんじゃねぇ」
親父のゲンコツが頭に降ってきたよぉ。半分冗談だったのにぃ。
頭を押さえて唸りながら見上げるとぉ、怒りんぼな顔のおとーと目が合ったよぉ。そんでぇ、互いに吹き出したねぇ。
「大人の男の本気を思い知ったか」
「反省するぅ。心に刻むぅ。今受けた痛みの分はぁ」
「全然反省してやがらねぇの」
ほとんどノーダメージだったからねぇ。けど親子っぽいから楽しぃ。楽しかったなぁ。
「アタイの人生をぉ、咲かせてくるねぇ。おとー」
「あぁ。キレイに咲けよ」
おとーからもらう最後の水分はぁ、涙と鼻水になりそうだよぉ。




