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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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588 生きた証

 グラスの用意した朝食、焼かれた食パン一枚に私はマーガリンを存分塗りたくって手掴(てづか)みで頂いたわ。

 少々物足りなさもあるけれど、朝なんてこんなものよね。グラスとススキはジャムを塗ってペロリと(たい)らげていたわ。

 コーイチは焼き食パンを半分ぐらいでごちそうさまかしら。残りはグラスとススキへと分け与えていたわ。私への配慮(はいりょ)が足りなくてよ。

 朝食が終わってから、私はススキを連れてヴェルダネスにあるモーニングのお店へと足を運んだわ。

 コーイチのマイルームにあるPCで検索して出てきたチェーン店のメニューを参考にしたから、ボリュームに(とどこお)りはなくてね。

 モーニングセットを二人前注文して数分、テーブルに小倉(おぐら)トーストとサラダと卵焼きとウサリンゴが二セット並んだわ。食後にコーヒーも出てきてよ。

「たまに朝をごちそうになっててアレなんだけどさ、タカハシ家の朝食ってかなり質素(しっそ)よね」

「フォーレがハード・ウォールへ出向いていなければ、何かのサラダぐらい追加されていてよ」

「色んな意味で得体(えたい)が知れなさそうなんだけど」

 ススキはゲンナリしつつも、朝食を食べるスピードをゆるめなかったわ。育ち盛りだものね。よく食べるわ。小倉の甘みがよくてね。

「時にススキ、今朝の発言の真意を聞きたいのだけれど」

 サラダにフォークを突き刺しながら切り出す。

「チェルも()け口になったらって話?」

 卵焼きに醤油をかけながら切り返してきたわ。塩分の取り過ぎには気をつけなさい。

「赤ちゃんできても構わないって方よ」

 卵焼きに塩を振りかける。

「そっちね。本気よ。嬉しいじゃない。チェルだって欲しいんでしょ」

 サラダにマヨネーズをかけて大口を開けたわ。

「私は、怖いわ」

 思わず小倉トーストに醤油をかけてしまうところだったわ。人は考え込んでいると何を仕出かすかわからなくてね。

「意外ね。チェルに怖いものがあるだなんて」

 ウサリンゴを頭の方からかじりつく。

「もしもコーイチの子を授かってしまったら、子供はたぶん勇者か魔王になるもの」

 負けじとウサリンゴをお尻の方からかじる。何の勝負かしら。

「ヒヨってるわりには、随分と強気な発言じゃない」

 全部平らげ、おしぼりで手と口を拭いているわ。少々作法がなってなくてね。

「ススキも知っているでしょう。コーイチの子供達がいかに強く、そして急成長を遂げたか」

 あら、私のモーニングセットもなくなってしまってね。

「だから? 確かに異常だけど、タカハシ家の事だからもうなんでもアリでしょ」

 店員さんが空いたお皿を回収してくれたわ。

「あの子達が強くなったのはコーイチの能力あっての事なの。そしてそれは、ススキに子宝が宿(やど)っても同様の事が起こるわ。(すえ)は勇者か魔王ね」

 コーヒーが二つ運ばれてきた。黒い水面に顔が反射するわ。

「あたしより早く、そして強く成長するわけね。上等よ、コーイチの子供なんだもんそのくらいじゃなきゃ」

 黒い水面を砂糖とミルクで変色させる。風情(ふぜい)がなくてね。

「言っておくけどコーイチは近々死ぬわ。勇者との因縁の決戦も近いもの。一人で魔王(バケモノ)級の子供と向き合う事になってよ」

 口の中が苦くてね。

「大丈夫よ。なるようになるから。だってあたし、コーイチの生きた証を残したいもの。全部なんて消させないんだから」

 ホットコーヒーをごくごく飲んむわね。嗜((たしな)む飲み方を覚えるべきだわ。

「私は怖いのよ。魔王のしがらみを押し付けた挙げ句に、コーイチとの子供が魔王になってしまうのではないかってね」

 もし魔王の重責を押し付けてしまったら、子供は幸せになれるのだろうか。

「まったくしょうがないわね。もしその時が来たらあたしの子供がチェルの子供を助けてあげるわ。チェルだって欲しいんでしょ、コーイチとの生きた証を。だったら些細な恐怖なんて乗り越えて捕まえなさいよね。もう時間もあまりないんだからね」

 コーイチと生きた証、ね。確かに、思い出だけじゃ味気なくてね。

「話せてよかったわススキ。少し、心が揺れ動いてよ」

「そのまま天秤傾けちゃいなさいよ。旅は道連れってね」

 追加注文にアイスでも頂こうと思ったのだけれど、やめね。

 微笑みが温かくて、さすがはコーイチを射止めただけはあってね。

 領収書を手に、ススキと共にレジへと向かったわ。今日は(おご)ってあげるわ。

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