586 魂の解放
「どこー、ここー」
真っ白で何もなーい。ヴァリーちゃんは何でここにいるんだっけー。
「よぉヴァリー。派手にやってくれたじゃねぇか。キヒヒっ」
デッドが見下ろしながら笑いかけてきたー。おかしーなー。デッドは死んでるはずなのにー。
「まさかヴァリーともここで再開できるとはね。嬉しい限りだよ」
「おもしろい余興だったよね。ちょっと身体の感触がおかしかったけども」
「アクアと相まみえれた事にだけは感謝しますよ」
シャインにエアにシェイまでー。無様な負け犬達と知らない場所でどうしてー。あっ。
「待ってよー。ヴァリーちゃんひょっとして死んじゃったのー。あり得ないー。まだ生きてやりたい事たくさん残ってたー。完璧な勝利プランも立ててたのにー」
「そいつは気の毒だったな。確かにヴァリーは勇者共を手のひらで踊らせてたと思うぜ」
「敗因はフォーレに暗躍されていた事に気づかなかった事ですね。フォーレがヴァリー対勇者一行という盤上を俯瞰し、駒を動かしていましたから」
「ヴァリーの悪巧み程度じゃ、フォーレの策略には敵わないよね。ボーっとした内側にとんでもない量の情報が入ってるんだもん」
「ヴァリーの慎ましい胸に対してフォーレの豊満なボディ。どちらが上かは誰が見ても明らかじゃないか」
「どいつもこいつも好き勝手言わないでよー。アンタら敗北者と違ってヴァリーちゃんは勝者なんだー」
フォーレが邪魔してたなんて反則だってー。あんなマヌケにヴァリーちゃんが出し抜かれるなんてー。
「本気で勝つ気だったわりには、本来の姿で戦ってなかったな。死ぬまで舐めプしてたのはどうしてだよ」
「だってヴァリーちゃんの本来の姿ってかわいくないじゃなーい。姿を変えたところでヴァリーちゃん自身は強くならないしー」
「けど僕らを使役する精度は上がっただろぉが。それにスプラッタな姿も一部のファンには需要あるだろぉが」
「ヴァリーちゃんは一部のファンじゃなくてー、みんなに愛されるアイドルじゃなきゃいけないのー」
ゾンビみたいな姿で勇者に勝つなんてあり得ないでしょーがー。
「それにしてもこの場所どうなってるの。ヴァリーが死んでもまだ残ってる見たいだけど」
え。ここってひょっとしてー、魂のストック場所?
「自分たちがまだここに残っているのは不思議ですね。現世を眺める機能は失われてるみたいですけど」
「ヴァリーは死んでなお、この場所を維持しているのかい?」
「イヤ。イヤイヤイヤイヤーっ! 死んじゃったヴァリーちゃんがこの場所を維持できるわけなーい。こんなの穴の空いた水槽に空気が残ってるだけの状態だよー」
ヴァリーちゃんが叫ぶとー、白い空間がヒビ割れ出したー。魂をストックしていたケースが壊れだしてー、禍々しい地獄の景色が垣間見えてるー。
「ヤダー。地獄になんて行きたくないー。寒気がしておどろおどろしおくて怖いよー」
「おや、アレが地獄の景色ですか。静かな闇ではないですか」
「暴風ビュービューだね。飛び出したらバラバラにされそうだよ」
「なんと光りにあふれた地獄だろうか。たくさんの美女が笑いかけながら手招きしてるではないか」
「テメェらホントに同じ地獄が見えてんのか。ボクには毒々しい空気が漂ってるように見えるぜ。あとシャインは何ちゃっかり楽園へ向かおうとしてんだ」
ひび割れはヴァリーちゃん達を覆う球体のように走ってー、一欠片ずつ白い壁が剥がれ落ちていくー。
「ヤダヤダヤダヤダー」
「ほんと、最後の最後まで往生際が悪いですね。世話の焼ける妹です」
「シェイって下から二番目のわりにはお姉ちゃんだよね」
「素晴らしき姉妹愛じゃないか。ミーも鼻が高いよ」
「いいからさっさと逝こうぜ。いつまでもこんなトコ居続けてもしょうがねえかんな」
デッドが先陣を切って地獄へと歩いて行くー。ためらう事なくー。
「癪ですね。デッドに先を越されるなんて」
「あははっ。みんな勇ましいね。ウチは怖いよ。けど、ワクワクしてる」
「致し方あるまい。ミーも続くとしよう」
続いてシェイ、エア、シャインも地獄へと歩んでいくー。
「待ってよー。ヴァリーちゃんをこんな所に一人にしないでってばー。独りぼっちはイヤだよー」
置いてかれないように立ち上がってー、走ってみんなに追いついたー。
どんな地獄よりもきっとー、一人きりの地獄の方がツラいもーん。すっごくイヤだけどついて行ってあげるんだからバカーっ!
こうしてヴァリーちゃんが留めていた魂達は、ヴァリーちゃんと一緒に旅立ったんだー。悔しくなんてないんだからー。わーっ!




