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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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585 咲き時

「それにしてもキレイなお花だねぇ。みんな気持ちよさそぉに咲いてるぅ」

 花の咲いている姿を気持ちよさそうだなんて、斬新(ざんしん)な感想だな。

(うらや)ましぃ。アタイもそろそろ咲いてみたいなぁ。ねぇアクア」

 フォーレはおねだりする様な甘えた笑顔で、アクアへと視線を送る。

「フォーレのお花って咲くの。どんな花をしてるの。私見てみたい。今すぐ咲いて見せてよ」

 アクアは期待で笑顔を弾ませながら、フォーレの頭から生えている草を見上げた。

「ダメだよぉ、アクア。花には咲き時があるんだからぁ。最高の舞台を用意してぇ、アタイを咲かせたいのぉ。だからアクアたちに選んでほしいなぁ」

 眉を(ひそ)めて困った笑顔を見せたフォーレは、ボクに緑の視線を寄越す。

「フィジカル最強なグラスと先に戦うかぁ、フィジカル最弱なアタイに咲く舞台を用意してくれるかぁ」

 完全に(ゆる)くなった空気に気持ちがふやけてしまっていたけれど、ボクたちの目の前で談笑している少女は次か、その次に対峙する魔王だ。

 そして直接宣戦布告をされてしまっているというのに、気を引き締められない。

 挑戦的な笑みが、アタイを選べと催促(さいそく)している。

「やめてよ。その言い方だとフォーレが弱いみたいじゃん。私たちの中で誰よりも上手に戦えるのに」

 アクアが批難をしながら立ち上がり、ふくれっ面をする。

 アクアの表現が的確だとしたら油断ならない。ボクたちはフィジカルや特殊能力こそ強力なものの、戦い方が下手なヴァリーを直接戦闘では圧倒していたのだから。

 戦い上手って表現だけで脅威を(うかが)えてしまう。

「えっちぃ。今胸の事について考えてたでしょぉ」

「は?」

 フォーレはなぜかモジモジと両手でたわわな胸を隠しながら、顔色を変えずにケロリと続ける。

「絶対思ってたぁ。アタイの胸囲(きょうい)について思ってたぁ」

 突然の言いがかり声を出せないでいると、クミンとエリスから批難の視線を浴びせられる。

「ジャスも意外と青いねえ。女が恋しくなったかい」

「最低。男ってみんなこうなのかしら」

「いや誤解だ。ボクはフォーレを脅威に感じていただけで、フォーレの胸囲については考えてもいなかったからな!」

 全力で否定したけれど、出した言葉でこんがらがりそうになる。

「ジャスもフォーレの魅力に気付いちゃったか。(あらが)えないよね」

 アクアに至っては我知(われし)り顔でウンウンと(うなず)く始末だ。

「おいおい、マジかよ」

 しまいにはワイズが驚愕する。

「勘弁してくれ。ワイズまでも空気に飲まれないでくれ」

「どこでジャスの思考を読み取りやがった。じゃなきゃあんなフリは出来ねぇぞ」

 だからボクは胸囲については考えてないってワイズ。と叫んで反論しようとしたけれど、至ってマジメな様子に声が(のど)へと引っ込んだ。

 含み笑いでフォーレがワイズへ横目を向ける。

「アタイの事を驚異的に思ってそうだなぁって空気を感じただけだよぉ。そんでぇ、おもしろそうだからカマかけただけぇ」

 地味にイヤなからかい方をしてくれる。

「ジャス、ヤベぇぞフォーレは。こっちの思考を読む能力と戦術に組み込む力がアホほど(たけ)ぇ。戦い上手だって言い分も納得だ」

 ワイズが気圧されてる。このくだらないやりとりだけで。

「そんなに警戒しないでも大丈夫だよぉ。アタイの事はぁ、パンドラボックスか何かみたいに思ってればいいからぁ」

 ニマリと微笑む姿が空気を軟化させる。警戒していたのがウソのように緊張感が解けてゆく。

「さてとぉ。世話の焼けたヴァリーの(とむら)いも終わったしぃ、そろそろお(いとま)しようかなぁ。けどその前に喉が渇いちゃったぁ。お水ちょうだぁい、アクア」

「もう、相変わらずなんだから。はい、お水」

 フォーレが両手で器を作って差し出すと、アクアが水を注いだ。ンクンクと喉を鳴らしながら飲み、プハぁと美味しそうに息を漏らした。

「やっぱりアクアのお水はうまいねぇ。喉越しがシッカリしていてぇ、それでいてべたつかなぁい。スッキリした飲み心地だぁ。ココアはバン・○ーテンのものを使用したのかなぁ?」

「そんなブラウニーみたいな味しないからね」

「おかわりぃ」

「はいはい」

 よくわからないけど、フォーレは三杯ほどアクアの水を飲んだら満足した。

「おいしかったぁ。そんじゃぁまたねぇ」

 手を振ってナチュラルに帰ろうとするフォーレだけど、何か忘れてないか。

「いや待て魔王フォーレ。ノコノコとボクたちの前に現れて、何事もなく帰るつもりか」

 剣を構えながら思い出した。そうだよ敵だよ。

「別に一波乱(ひとはらん)かましてもいいんだけどぉ、やめといた方がいいよぉ。既に根は張ってあるからぁ」

「なっ!」

 足に何かが絡みついてきて見下ろすと、地面から木の根が延びていた。ボクの身体を支柱の様にしてグルグルと伸び上がり、胸の辺りで鎌首を(もた)げた。心臓を突き刺さんとしている。

「なんてねぇ。今は咲き時じゃないから戦わないよぉ。脅さなくても逃がしてくれてただろうしぃ。アクア、ほいこれぇ」

「え、コレ?」

「後で読んでねぇ」

 ボクに絡んだ根が(ゆる)み、地面へと戻ってゆく。フォーレは白衣の内ポケットからボロボロの紙を渡すと、(きびす)を返して歩き去って行った。悠々と、ゆっくりと。

 参ったな。次の戦い、フォーレにせよグラスにせよ、一筋縄じゃいかなそうだ。

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