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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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583 初めての命乞いと初めての

 ボクの仲間達に囲まれたヴァリーが、迫真の悲鳴を上げてうろたえる。

 みんな蘇りしタカハシ家を無事に倒せた様だ。錚々(そうそう)たるアンデットたちが召喚された時は生きた心地がしなかったけどね。頼もしい限りだよ。

「こんなのおかしーよ。みんなの事をバリッバリに強化して蘇らせたんだよー。負けるはずがないじゃなーい!」

「いくらシャインを強くしたところで、無限の自動蘇生を失った状態では脅威も半減さ。ヴァリーとは相性が悪かったとも言ってたね」

「憎しみによる支配は強い殺意を()んでた。シェイの強みは殺意を押し殺して敵を仕留める暗殺術。余計な物まで強化したせいで弱点が増えちゃってたよ」

「いくら強くなっても攻撃が当たらないくらい暴走してちゃ無意味よ。(みずか)ら生み出した風に振り回されるパワーなんて、ない方がよかったんじゃない」

 ヴァリーの(なげ)きにそれぞれの回答が返ってきた。別に答え合わせをしたいわけじゃないだろうけども。

「ついでに指摘すっと、ヴァリーとデッドの連携は見栄えを重視したハリボテだったぜ。上手くいく前提で攻撃を仕掛けすぎだ。対応された時の対策がおざなりすぎたな」

「うるさいうるさいうるさーい! 変に抗わずに黙って死んでりゃよかったのよー!」

 首を横に振り、赤のツインテールがブンブンと振れる。完全に癇癪(かんしゃく)を起こしている。まっ、最初から聞く耳を持っているタイプではなかったけども。

 剣をジャキンと握り直し、一歩ずつヴァリーへと歩み寄る。

「イヤー。くるなくるなくるなー!」

 怯えきったヴァリーが無造作にブンブンと大鎌を振り回す。もはや武器としての鋭さは失い、ただの取扱注意な凶器にまで成り下がっている。

 一回、大鎌の刃に合わせて剣を振るだけでヴァリーの手から弾き飛んだ。遠くでカラカラ音を立てて落ちる。

 もしかしたら怯えているのは演技で、まだ隠し球を用意しているのではと一応警戒してはいた。死んだフリまでして騙してきたぐらいだ。けどすぐに考えを改める。

 ないな。

 もう全部出し切って、本気で怯えている。無数の従者を使役する身勝手なお姫様は、頼る者を失った少女へと立場を変えていた。

「ちょっと待ってー。ヴァリーちゃんはこんなにもかわいいんだよー。見逃してくれたらたっぷりサービスしてあげるー。夜のテクだって凄いんだからー」

 まさか、下卑(げび)た誘惑をし出すなんて思わなかった。全力で人を(おとし)め、不幸な姿に高笑いをしていたというのに許されようとしている。

 許されるはずないだろ。こんな度の過ぎたワガママが。

 剣をギュっと握り、睨みながら黙って近付く。

「落ち着いて話し合おうよー。ヴァリーちゃんの容姿がイヤなら好きな姿になってあげるからー。骨格は変えられないけどー、好みの姿に成り変わる事だって出来るんだからー。マリーちゃんなんてどうかなー。ジャスが望む様に演じてあげるー」

 何を言い出すんだコイツは。マリーを演じるだと。無残に使い捨てておいて、強引に利用しておいて。マリーとの思い出はグチャグチャに荒らしておいて。

「ヒっ。怖い顔しないでー。そうだー。見逃してくれたならヴァリーちゃんが仲間になってあげるよー。アクアだって仲間にしてるんだからいいでしょー。むしろ(どん)くさいアクアよりうんと強よくてかわいいくて役に立つんだからー、いっそアクアから乗り換えちゃおうよー」

 ヴァリーはいったい、何に必死になっているんだろう。生き残りたいのか、死にたいのか、どっちなんだ。こんなにもボクの怒りを燃え上がらせるなんて。

 いきすぎた怒りが頭の中を冷たくさせる。

 初めてだよヴァリー。タカハシ家の中で命乞(いのちご)いをしてきたのは。

「もういい、わかった」

 ボクが言葉を漏らすと、ヴァリーはオレンジの瞳を輝かせてウキウキで両手を合わせた。

「わかってくれたんだねー。じゃあまずはアクアの始末からかなー。それとも夜のお楽しみを」

 初めてだよ。

「わかったから、もう黙って死ね」

 ためらいなく殺す事のできるタカハシ家は。

 冷たく死刑宣告をし、剣を振り上げる。

「まっ待って。お願い助けて。まだヴァリーちゃん死にたくなっ」

 そして、命乞いごとヴァリーの身体を袈裟斬(けさぎ)りにした。

 見開いたオレンジの瞳から涙粒がこぼれる。

「イヤ……まだ死にた……」

 身体を二つに分けながら、最期までヴァリーは(せい)に執着していた。

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