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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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581 連携

「デッドー。死に損ない二人が相手なんだからー、一思(ひとおも)いに殺しちゃダメなんだからねー」

「ヴァリーは相変わらずいたぶるのが好きだな。いいぜ、クモの糸で(から)め取ってからオモチャにすっぞ」

 大鎌を持ったヴァリーがデッドの背に乗り、顔を隣り合わせに近づけて油断しきった態度を取った。

「相手は随分とオレ達を優しくしてくれるらしいぜ。()(くさ)ってくれる」

「怒るなよワイズ。興奮はパワーになるけど、付け入る隙を与えてしまう」

「ちょっと前まで正気じゃなかったヤツが言ってくれるぜ。任せるから頼れよ相棒」

 頼もしい事を言いながらボクの遙か後方へと下がってゆく。どこまで酷使(こくし)してくれるんだか。けど悪くない。

「気にくわねぇツラしてんじゃねぇよ。ピンチならもっと絶望しなぁ!」

 デッドが顔を(ゆが)めて叫ぶと、八本の細長く鋭いクモ足で大地を蹴って頭上へと跳躍した。夜空に紫の巨グモが踊り、三日月のように弧を描いた赤い刃が輝く。

 デッドの両手からクモの糸が次々と発射される。直接ボクを狙う糸もあったけど、本命は周囲に散らされた方だろう。地面近くにクモの巣が張り巡らされ、動きを制限される。

 降り注ぐクモの糸を躱しはしたものの、柵の様にクモの糸で囲まれてしまった。

「さぁ逃げてみな。逃げれるモンならよぉ!」

 デッドの鋭い足がボクに狙いを定めて向けられる。

「怖い攻撃だ。逃げさせてもらうよ」

 柵で囲まれているけれども、まだ充分なスペースは残っている。剣を振るって二本の足を(さば)きながらデッドの落下攻撃をやり過ごす。

 赤の獰猛(どうもう)な視線から目を()らさない様に対峙し、存在感のなさに気付く。

「キヒヒっ、気付いたな」

 ニヤリとイヤらしく笑うデッドの背に、ヴァリーがいない。

「キャハハハっ。こっちだよー!」

 声の方に視線を向ける。建物と木の間に張られたクモの巣をバネの様に踏みながら、大鎌を構えるヴァリーがいた。進行方向にはワイズの姿が。

「もう仲間を助けに行けないよねー。まずは景気よくー、腕の一本ぐらいもらっちゃおー!」

 ヴァリーが自らの身体を大砲の様に発射させ、ワイズへと大鎌を振りかぶる。

 ワイズは驚愕を笑みに変え、唱えた。

「ペネトレイトウィンド。オレが(おとり)だぜ」

 連携を口に出して敵に認識させる事で、互いに守ってもらう心積もりだと錯覚させる罠。分断を許す事で、孤立状態を狙わせるボクたちの策だ。

 遠距離攻撃の強みだよね。急突進してくる敵へ真正面から安全に反撃を出来るのって。

「えっ、キャぁぁぁぁー!」

「ちっ、おらぁぁぁあっ!」

 オレンジの瞳を見開いて悲鳴を上げるヴァリー。デッドが舌打ちしながらクモの糸を上へと引っ張った。

 暗くて気付かなかったけど、ヴァリーの足下にはクモ糸が絡みついていた。風魔法が着弾するよりも早く、ヴァリーは宙へと(のが)される。

「外れちまったか。出来たら一撃で仕留めたかったんだけどな」

 足を引っ張られて錐揉(きりも)み状態で飛んでいたヴァリーが、宙で体勢を整えながらデッドの背中へと着地した。

「ちょっと危ないじゃないのー。死に損ないなら(いさぎよ)くいじめられなさいよー!」

「キヒヒっ。ざまぁねぇなヴァリー。ボクがいなかったら死んでたんじゃねぇか」

「デッドうるさーい。ナマイキ言ってると身体を没収するよー」

「おぉ(こわ)っ。そうヒスんなって」

 ヴァリーがカンカンに怒鳴り散らすと、デッドが軽く(あお)って嘲笑(ちょうしょう)する。険悪とまではいかないけれど、いい雰囲気とは言いづらい。

「強化されたわりにはデッドも大したことないのでないかい」

 生前の時より手数が異様に少ない。クモの巣も心なしか脅威に感じられない。

「ちっ。(いて)ぇトコついてくれるじゃねぇか。死にてぇなら遊びはなしにしてやんぜ」

「ダメだよー、一回の失敗で終わらせちゃうなんてー。勇者の連携はクモの糸で絶ってあるんだからー」

 ヴァリーがワガママを言っている途中で、ワイズが炎魔法でクモの糸を焼き尽くす。この程度の拘束なら、すぐに解く事が出来るんだ。

「はー。そんなのナシでしょー。どうして思い通りに事が進まないのよー。もういー、手っ取り早く片付けちゃおー!」

「いじめんのはどうしたんだよ」

「女心は秋空よりも移り変わりやすいのー。もう全力全開なんだからー!」

 どこかゆるかった気配が張り詰めた物に変わる。まだまだ気を抜けないはずなんだけど、どうしてか負けるビジョンが浮かばない。

 コレまで散々辛酸(しんさん)を舐めさせられていたけれど、ようやくアクアがヴァリーを最弱と言っていた理由がわかった気がした。

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