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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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580 暴風

 荒れ狂う風が凶器となって、至る方向から襲い来る。

「ヤになるわね。どこからでも自由に攻撃を飛ばしてくるんだから。本体は遠い夜空を飛んじゃってさ、こっちの攻撃は届きにくい」

 前方からの斬りつける風を右に跳んで(かわ)し、背後から飛んでくる風弾を伏せてやり過ごし、真上から押し付けてくる風の壁から走って逃げ、風の隙間を縫う様に飛んでくる黄色い羽を矢で射貫いて無力化する。

「ちょこまかと害虫の様にうっとうしい。さっさと潰れて息の根止めちゃいなよ」

「オマケに凶暴になってるときた。こっちは大切なアンクレットが壊れて魔力が低下してるってのに」

 エアを相手にしてるんだから万全の状態で戦いたい。例え微量の強化でも、失いたくなかった。

「装備一つで嘆くなんて不自由だね。かわいそうだね。ウチの風はどこまでも解き放たれてるからどんな強風でも吹かせれるよ!」

 知ってる。さっきから髪や服があっちこっちへバタバタと音を立ててウザったいのよ。エアは風に乗ってとんでもない速度を出してるし。

 着弾点を読んで矢を進行方向へ放ってるんだけど、エアが飛び去った後方の夜空を射貫いてしまう。

「どこまで先を射れば攻撃が(かさ)なるのよ」

「ウチは常に加速してる。そんな攻撃に追いつかれて(たま)るもんか」

 ただの吹きすさぶ風でさえ態勢を崩すほどの風速を出している。射るのでさえやっとなのに、放った矢が受ける風の影響も考えなきゃいけない。狙った所へ射るのでさえ苦労してるのに、アジャストまでも求められる。

「当たらないね。悔しいよね。得意の武器が役に立たないなんてさ。どうせなら表情を絶望で染めて見せてよ!」

 荒れ狂う攻撃が上空(エア)から散らされ、地上(アタシ)へと無造作に降り注ぐ。

 一発一発が速くて鋭い。一撃でも食らったら負ける。けど、(あら)い。

 エアが意地になって風を強くするにつれ、威力が増して精度が下がる。アタシの避ける必要がだんだんとなくなっている。

「あははははっ。死ね死ね死ねっ!」

 威力がこもっているだけで満足してる様に、甲高い笑いを上げるエア。

 あーあ、みっともない。(みずか)ら生み出した暴風に翻弄(ほんろう)されてるじゃん。自由自在なんて言葉が頭の中から消え失せてるんじゃないの。

「愉快そうなわりには、不自由に飛んでくれるじゃない。まだ傷だらけで工夫を凝らしながら戦ってたエアの方が、自由に戦えてたわよ」

「ウチは不自由なんかじゃない。地面に這いつくばってるエリスの方がよっぽどか不自由のクセに」

「意地になってんじゃないわよ。挑発って微風さえ受け流せなくてどうすんの。飛んでるわりには、首輪に鎖つけて繋がれてるように動きが制限されてんじゃない」

 不自由って檻に閉じ込められた小鳥みたい。うるさい鳴き声が哀れみを生んでるわ。

「黙れぇぇぇぇえっ!」

 無造作に放たれる攻撃があらぬ場所へと着弾する。アタシに当たらないならせめて、別の場所で戦ってる仲間を狙いなさいよ。柔軟性すら不自由してんじゃない。

「どうしたのエア。アタシは一歩も動いてないのに当たってないわよ。案外狙撃が下手くそなのね。ほら、もうちょっと近付いてきてもいいのよ」

 安い挑発だわ。普段のエアなら乗らないだろうし、乗ったとしてもアタシの想像を超えてくる。けどどうしてかな、想定通りに誘導できるイメージしか湧かないのは。

「あったまきた。接近戦で確実に殺してやるっ!」

 風に乗って一直線に急降下してくるエア。両手に風を溜めていて、近距離射撃を狙うつもりみたい。

 ホントにまっすぐくる始末だし。生前だったら口から風を吐いたり凶悪なおでこで突っ込んできてたわよ。

 矢を引いてエアに狙いを定め、魔力を込めて引きつける。

「風に引き千切られろぉ!」

 荒れ狂う暴風の固まりを放たれる。荒々しくて、凶悪で、ムラがある。

「雑に固めてどうすんの。風が馴染んでないわ。今、自由にしてあげる」

「あっ」

 放つのは貫通力に特化した一矢。暴風の中心を晴らす様に貫き、奥に飛ぶエアの身体も射貫いた。

 胸から勢いよく墜落し、地面を転げる。吹きすさんでいた暴風が止むと、夜の静寂が戻ってきた。

「ははっ、あはははっ。負けちゃったか」

「ちょっとやめてよエア。急にらしく笑わないでってば。怖いじゃない」

 力尽き仰向けに倒れて愉快に笑いだしたエアに、今日一番の恐怖心を覚える。殺意剥き出しにしてるより笑ってる方が威圧感あるわ。もう動けっこないって言うのに、身体が後退(あとずさ)っちゃった。

「暴風に乗ろうとするのもスリルがあって楽しいね。次はもっと上手に乗りたいな。さすがにもう飛び疲れちゃったけどね」

 同意を求める様に笑みを向けてくる。()き物が落ちた様に暴れっぷりが消えたわ。

「羽休めが終わったらまた飛んだら。今度はアタシのいないところで飛んでよね」

「ホントはエリスも連れてきたかったけどね。アクアが泣きそうだからやめとく。地獄の空はウチ一人で飛んでくるね」

「ホント、あきれ果てるほど自由ね。心ゆくまで飛んできなさいよ。でもあんまりムチャしてアクアを心配させないでね」

「ヤダ。バイバイ」

 エアは笑って拒否をすると、最期まで掴めない風の様に自由に、自由へ身体を泥の様に溶かして()ったわ。

「なっ、毒気を抜かれるほど自由に土へと還ってくれちゃって。おとおさんの(かたき)とか、吹き飛んじゃってたじゃないの」

 まぁ相手がエアだからしょうがないか。

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