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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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579 殺意

 夜の闇に紛れながら、シェイが二本の剣で次々と斬り掛かってくる。

「やっぱり速い」

「当然です。アクア(ごと)きが、自分の速度についてこれるはずありません」

 息をする間もない連撃(れんげき)に私は、防戦一方になってしまう。付け入る隙のない速度に加え、一撃一撃が重い。防御する度に衝撃が傷口へと響くもんだから呻き声が上がっちゃう。

 そしてシェイの攻撃全てに、今まで感じた事のない殺意が込められてる。あのシェイが、明確に私を殺そうとしている。

「ダメだよシェイ。そんな憎しみに囚われた戦い方しちゃ。殺意が強すぎるよ」

「泣き言ですか。怖じ気づきましたか。ならそのまま、自分の強さにひれ伏して下さい。アクアを殺したら、次こそジャスの番です」

 大きな単眼(ひとつめ)にこれでもかと憎しみを込めながら、体重の乗った必殺の一撃を連続して繰り出してくる。

 速くて重い。生前の頃より遙かにパワーアップしてる。頭の中が絶望の海で溺れちゃうみたい。こんなのダメだよ。

 防御をこじ開ける猛攻が、強引に命を貫こうとする果てしない執着が、冷静さをかなぐり捨てた激動する殺意が、私のトライデントを宙へ弾いた。

「あっ」

 悔しすぎて、涙を溢れさせながら声を漏らしてしまう。

「死ねっ、アクアっ!」

 腰を入れた豪速の突きが、私の心臓を目がけて延びてきた。

「初めて知った。強い殺意って、こんなにも人を弱くするんだね」

 相手の攻撃を読むなんて高度なテクニックなんて要らなかった。殺意が乗っている分、殺意そのものが次どこを攻撃するか教えてくれるから。

 だから心臓を狙った一撃はバレバレで、わざと崩した体勢からでも楽々に避けれてしまった。

「何っ!」

「ゲリラ槍雨(そうう)

 小さな涙粒から小さなトライデントを複数作り出し、シェイの身体を銃弾の様に貫いた。

 傷口を押さえながら膝をつくシェイ。

「シェイの戦闘スタイルは暗殺者(アサシン)なんだよ。必殺の一撃を気配ゼロで放たなきゃいけないの。だって力が弱いから。長所で弱点を凌駕(りょうが)してたからシェイは強かったんだよ」

 シェイは俯いて、黙ったまま私の話を耳に入れている。

 確かに全体的に強化されていた。冷静に実力を発揮されていたら勝ち目なんてなかった。ただ強すぎる殺意だけが、致命的な弱点を生み出していた。

 どんなに強く速い攻撃も、来る場所とタイミングがわかってたら対処できるから。

「ヴァリーの憎しみに染められたまま殺意を()き出ししちゃうシェイなんて私、見たくなかった。お願い、負けてもいいから心は(くっ)さないで」

 シェイの肩が上下に揺れ出し、クっクと含み笑いが漏れ聞こえてきた。

「まったくアクアは、自分に無理難題(むりなんだい)を吹っ掛けてくれますね」

「え、シェイ?」

 声色は冷静そのもの。さっきまで狂いようがどこかに行ってしまっている。

「自分はヴァリーの支配下に置かれていなければ、アンデットの身体をもらえなかったのですよ。ヴァリーを出し抜くためには、狂ったフリは必須じゃないですか」

 イタズラを成功させたかわいい笑みで、シェイは私を見上げたよ。

「えっ、じゃあ、最初から正気だったの?」

「言いましたよ。ヴァリーに魂を囚われるはずがないと。まぁ事前に覚悟をしていなければ為す(すべ)はなかったでしょうけどね」

 さすがはシェイだ。私の憧れは変わらないや。

「それにせっかくなので、頭を使わない純粋な戦いをしてみたかったのですよ。強かったですよ、アクア。おめでとう」

「ありがとう。シェイ」

 まっすぐ勝利を(たた)えてくれるんだから、素直に受け止めなくっちゃね。今度こそ、最期だから。

「アンデットの身体は(もろ)くていけませんね。そろそろ時間のようです。アクア、父上を頼みますよ」

「お姉ちゃんに任せといてよ、シェイ」

 互いに笑い合って握手を交すと、シェイの身体は泥のように溶けていった。大丈夫。繋いだ手の感覚は本物だったから。

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