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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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577 憎しみに囚われて

「ヤローに生存権などない。うおぉぉぉおっ!」

 死の(ふち)より蘇らされ、(ボク)の存在を確認した瞬間、シャインが雄叫びを上げながら突っ込んできた。

 シャインの馬力と体重で吹き飛ばされたら、今のボクの身体じゃバラバラに吹き飛ばされる。

()っ」

 逃げようとすると身体中に痛みが走り、足が止まってしまう。

 押し潰す様な殺意と怨嗟(えんさ)をぶつける様に、土埃を上げながら一直線に白の馬体が迫ってくる。

「らしくないねシャイン。真っ先に男へ突っ込んでいこうなんてさ」

 全力疾走する身体を上下で真っ二つに叩き切ろうと、クミンが横から大剣で薙ぎ払う。(すんで)のところ馬脚で大地を蹴り、跳躍する事でシャインが躱した。

 弧を描く様に夜空を白馬が彩る。

「邪魔をするなクミン。()っくきヤロー共を殲滅(せんめつ)し、酒池肉林(しゅちにくりん)に溺れるのだ。ミーの道を阻むなら、キサマから殺すぞ」

「やれやれ、しょうがない男だね。仕方ないからワシが尻を拭ってやろうじゃないか。いいさ相手してやるよ。大好きな女の尻だ、存分に追いかけてきな」

「おんなぁぁぁぁあっ!」

 クミンが挑発して走り去ると、シャインが血眼になってついて行く。

「助かった。けどあのシャインは何だ。まるで別人のように憎しみに捕らえられているじゃないか」

 クミンとシャインを見送っていると、強い殺気を感じた。視線で人を殺せるんじゃないかと思うほどの殺意を大きな単眼(ひとつめ)に込めて、シェイが睨んでいた。

「死して再び身体を得られるとは思いもしませんでしたよ。嬉しいですね。コレで自分の奴隷達の(かたき)を、(みずか)らの手で取れるんですから!」

 両手に夜闇を圧縮して双剣を作り出すと、殺意を剥き出したまま瞬足で間合いを詰めてきた。影を置き去りにするほどの速さに、反応ができない。

 振り上げられた黒の双剣が、ボクに死を悟らせる。が身体をねじ込ませる様にシェイを遮ったアクアが、青のトライデントを持って剣撃を防いだ。

「ダメだよシェイ。勇者は私たちの希望なんだよ。お願いだからヴァリーの呪縛に負けないで」

「寝ぼけた事を抜かさないで下さいアクア。自分が脆弱(ぜいじゃく)なヴァリーに(たましい)を囚われるはずがないではありませんか。見下した事を抜かす様なら、アクアから血祭りにして差し上げます」

「シェイ。いいよ、私が目を覚まさせてあげるからっ!」

 アクアが叫びながら、トライデントで双剣を押し戻した。二人は対峙しながら、ゆっくりと戦場を移していく。

「アクア」

 ボクは、意外と想われていたんだな。そんな身体であのシェイを相手するんだ。死ぬなよアクア。

 急に風が吹きだした。ハッとして見上げるとエアが憎しみに(まみ)れた表情で見下ろしていた。

「この身体じゃやっぱりダメ。風の心地よさを感じない。返せっ、ウチの翼。ウチの風っ。返せないなら、お前も失えっ!」

 黄色い翼を羽ばたかせると、鋭い無数の羽がボクを目がけて降り注いでくる。逃げ場のない攻撃の雨に、今度こそ覚悟を決める。

「みっともない八つ当たりなんてするんじゃないわよ。窮屈(きゅうくつ)そうに飛んでくれちゃって」

 エリスの文句と共に無数の矢が飛来し、降り注ぐ黄色い羽の全てを射貫いた。

「今のアンタは見てて気の毒ね。指図されて都合のいいように動いてるだけの人形だもの。自由に飛び回る事もままならないじゃないの」

「うるさいうるさいうるさーい! そんな事言うならエリスから不自由にしてやる」

「いいよ、きな。仕方ないけど、アタシが空へ解き放ってあげるわ」

 エリスとエアによる地対空の遠距離戦が始まる。エフィー、エリスはいつの間にか、戦いを安心して任せられるほど逞しくなっていたよ。それでも心配にはなるけどね。

「もー、みんな協調性がないなー。頭がお猿さんなんじゃないのー」

「キヒヒっ。言ってやんなってヴァリー。それに元々手を取り合ってのチーム戦なんて望んじゃいなかっただろ」

「まーねーデッド。足引っ張り合うぐらいならー、自己責任で暴れててくれてた方が楽だよー」

 ヴァリーがデッドと、他の三人をバカにする様に談笑をし出した。血の繋がった兄弟だっていうのに、思い遣りが見受けられない。

「へへっ、希望が出てきたじゃねぇか。タカハシ家はチーム戦が壊滅的みてぇだ。オレとジャスが組めばいけるぜ」

「まったく楽天的だな。ボクもワイズも傷だらけだってのに。けど、不思議と負ける気はしないよ」

 忘れていた物が戻ってきている気がする。思い返してみれば、勇者は常に無敵でいられるわけじゃなかった。

「余裕の笑顔なんて見せてむかつくー。勇者のクセに生意気だよー。ヴァリーちゃん達に連携ができないつもりでいるみたいだよーデッド」

「まっ、あんま得意じゃねぇのも事実だがな。けどしゃーねぇから、僕がヴァリーに合わせてやんよ」

「さっすがデッドー、頼りになるー。そんじゃーヴァリーちゃん達の強さをー、わからせしなくっちゃねー」

 デッドの背に跳び乗ったヴァリーが、嗜虐(しぎゃく)の笑みを浮かべてきた。

 いいさ。どんなペアが相手だろうとも、もうボクたちは(おく)れを取らない。

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