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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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575 起死回生

「おいおい。随分と厄介なモンがたくさん漂ってんじゃねぇかよ。しゃぁねぇなぁ。フレイム・レイン」

 聞けるはずのない聞き覚えある男の声が耳に届くと同時に、夕闇空から炎の雨が降り注いできた。

 次々と焼かれながら消えてゆくゴースト達の阿鼻叫喚(あびきょうかん)が墓地に響き渡る様を、ボクは呆然と見上げてしまう。

 アクアも驚いた様子で、トライデントを手に()げて佇んでいる。

「はーぁ? いやいやあり得ないでしょー。もうトドメを刺すだけだったでしょー。どうしてアンタがヴァリーちゃんの邪魔できるのよー」

 小馬鹿にした態度をとっていたヴァリーが、怒りを表しながら戦いに介入してきた男へ視線を飛ばす。

 ボロボロの服にボサボサの髪。疲労(ひろう)困憊(こんぱい)と言えるほどフラフラの状態。それでも両の足でワイズが立っていた。

「そりゃよぉ、仲間のピンチには駆けつけるもんだろ。なぁ」

 頼りない疲れた笑顔で問いかけるワイズ。

「ワシらは薄情(はくじょう)には生きられないのさっ!」

「ちょっ! ちぃぃぃいー」

 ヴァリーの後ろから幼女と思わしき影が、大剣を振り下ろしながらワイズの問いに応えた。

 ヴァリーは反射的に赤い大鎌の柄で受け止めると、逃げ回る様に距離を取る。

「ワイズ、クミン。どうして」

 確かに崖から落ちてしまったはず。助かりようのない高さだった。いやそもそも、こんな落ちぶれたボクを助ける理由がわからない。

「つれないねえジャス。ちょっと気が迷ったぐらいで見捨てるほど、薄い付き合いをしていたつもりはないよ」

 クミンは素早くボクの前に立つと、背中越しに気のいい微笑みを向ける。

「まっ、早く目を覚ましてくれるに越したこたぁねぇがな。自力で立てっか。ムリなら手を貸すぜ」

 ワイズもヨタヨタと遅れて近付き、ボクへ手を差し伸ばした。

 今更、手を取ってもいいのだろうか。

「ったく、迷ってないでさっさと手を取りなさいよね。女々(めめ)しくてやんなっちゃうわ。どうして昔のアタシはこんなのに憧れたんだか」

 逡巡(しゅんじゅん)していると、血溜まりの中心で倒れている少女からキツいお言葉をもらう。

 さっきから驚きの連続で考える事すらできない。エリスが何食わぬ顔で立ち上がり、ボクを見下した。突き刺したはずのお腹には傷跡すら残っていない。

「意味わかんなーい。グッサリ刺されて死んだはずのアンタまで平然と立ち上がるなんてあり得なーい。死人は死んでなさいよねー」

 死者や(たましい)を好き勝手に操っておいてどの口が言うんだか。しかし、なぜ生きていたのか理解できないのは同意だ。

 エリスはしゃがみ込むと、壊れたアクセサリーを手に立ち上がる。

「ペトラに作ってもらったアンクレットがアタシの致命傷を肩代わりしてくれたみたいね。死ぬほど痛かったけど、傷ひとつないわ」

「エリスが無事な事は知ってたよ。痛みまでは想像してなかったけど」

 ドワーフの村ヴェルクベルクでエリスのために即死級のダメージを肩代わりするアンクレットを作ってもらっていた。いざという時の御守り代わり。ボクは忘れていたけどアクアは覚えていたらしい。

 まさか、ボクの一撃で使ってしまい事になるとは思わなかったけどね。

「微量ながら魔力アップの効果がついてて便利だった。とても大切なアンクレットだったわ。お気に入りだったの。アクアを()して水のイメージで作ってもらってたんだから!」

 キっと殺意を込め、矢を(つが)えながらヴァリーを睨み付ける。よっぽど思い入れがあったんだな。

「元気そうでなによりだぜ。それとヴァリーは死人がどうこう言ってたけどなぁ、オレは助かったんだぜ。墜落地点に衝撃を(やわ)らげるほどふっさふさに葉を生やした木が一本だけ埋まってたおかげでな」

「ウソでしょー。崖の下にそんなもの生えてるわけないじゃなーい!」

「ソレが生えてたから生きてんだよ。周辺地形のチェックが甘かったな」

 したり顔で語るワイズが、ヴァリーの怒りを加速させる。

「言っとくけどワシは死んだよ」

「は?」

 生存報告の流れでシレっとクミンが爆弾発言を投下する。

「死んでた死んでた。オレも目を覆いたくなるほど凄惨な姿だったぜ」

「ユニコーンホーンってのは本物だね。キッカリと一回ワシを蘇生してくれたさ。まさかシャインに助けられるなんて。おかげで完全回復して元気が溢れてるよ」

 クミンが(ふところ)から取り出したユニコーンホーンは、白骨と化した様に輝きを失いひび割れていた。

「そんなのウソだー。仮に助かったとしてどうやって崖から登ったてのよー!」

「だから地形のチェック不足だっての。一箇所ツタの這ってる場所があってな、丈夫なツタだったから足場にして登ってきてやったぜ」

「ワシが何度落ちそうになったワイズを支えたと思ってるんだい」

 ドヤ顔のワイズにクミンがすかさず指摘を加えた。何だろう。凄く居心地がいい。

「ははっ。安心したらなんだか力が戻ってきたよ。改めて話したい事があるんだけど、先にアイツを倒してからにしよう」

 ボクも立ち上がった事で、形だけでも勇者一行は復活した。さぁ、やり直す時だ。

「何よなによー、死に損ないの分際でー。いいもーん。このヴァリー・タカハシちゃんがみーんなまとめて地獄までエスコートしちゃうんだからーっ!」

 ヴァリーは怒鳴り散らしながら、ボクたちに向けて大鎌の柄先をボクたちへと向けてきた。

 ハード・ウォールの墓場は、夜の深い青へ色を移していた。

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