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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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571 剥がれ落ちる羨望と外装

「バカな。ヴァリーはマリーに刺されて死んだはず。魔王城だって崩壊してたじゃないか」

 あり得ない。間違ってる。こんなの、現実で起こるはずがない。

「いいねー、その表情(かお)。そそるー。このヴァリーちゃんがマリーちゃん程度に刺されたぐらいで死ぬはずないじゃなーい。ちょーっとやり過ぎで痛かったけどー」

 人を(さげす)む色に(にご)ったオレンジの瞳が、とことんボクを見下してくる。(あざけ)る態度を示されているというのに、怒りが全然湧き上がってこない。感情が震えて動けなくなっているようだ。

「ソレにキャッスル・プリンセスはヴァリーちゃんの魔力で建てたお城だからねー。気分一つで建築も崩壊も自由自在なんだよー。死を演じるためとはいえー、パーっと壊し過ぎちゃった気がしないでもないけどねー。今度はどんな内装のお城建てよっかなー」

 夢のお(うち)を建てるようなウキウキ気分で空を見上げながら喋るヴァリー。妙なハイテンションはボクを置き去りにするには充分だった。

 魔王城の崩壊が自由自在って。そうだ、アクアも自分の意志で魔王城を崩壊させていた。

「ついでにマリーちゃんが今ここにいるのはー、神の思し召しでも奇跡でも何でもないんだよー。プークスクスー。ヴァリーちゃんの手によってアンデットとして生まれただけなんだよねー。だから生前よりはちょこーっと、身体強化が(ほどこ)してあるよー。人を刺せる程度にはねー」

 下品に大声で高笑いするヴァリーからマリーへ視線を移すと、フンと不機嫌そうに鼻を鳴らした。肯定をしていないものの、否定もしていない。

「ロンギングで朽ち果てたマリーちゃんを見て思いついたんだよねー、マリーちゃんの(たましい)は今日この戦いに使えるってー。だからお持ち帰りしてたのー。理不尽に殺された事に対する憎悪(ぞうあく)の渦巻いた固まりはー、絶対ヴァリーちゃんと相性いいって思ったんだー」

「誰と誰の相性がいいものですか。復讐の機会を用意してくれたから利用してやったに過ぎませんわ」

 フレンドリーな態度で同意を求めるヴァリーを、マリーは冷たい眼差しを寄越して一蹴(いっしゅう)した。

「増悪、復讐だって?」

「復讐ですわ。憎くて憎くて(たま)らなかったもの。ロンギングを襲撃された際に誰が死んでもわたくしだけは守られなければならなかった、けど勇者やその仲間が役立たずなせいで全てを失ったんでしてよ」

 おどろおどろしいマリーのオーラを垣間見た瞬間、呪殺(じゅさつ)という文字が脳裏を過った。

「このわたくしが死んでいながら、魔王アスモデウスを討伐し無用の産物と化した勇者一行が生き残るなんて世の中間違っていますわ」

 ウソだ。だってマリーはボクの仲間達とあんなに楽しそうな笑顔で会話をしていたじゃないか。

「勇者であるジャスは象徴として生きててもらわなければならなっかったけど、それ以下の仲間は邪魔だから早々に朽ち果てるべきでしたわ」

 ウソだ。一緒に生きて帰ってきたボクらをマリーは盛大に歓迎してくれた。

「時間をかけて文通(ぶんつう)破棄(はき)して交友を少しずつ絶っていったのに、無能な従者のせいで平和記念パレードの日に再び顔を合わせるハメになるとは思いませんでしたわ」

 ウソだ。便(たよ)りが途絶えていったのは互いに忙しくなっていったからだ。マリーの介入なんて、あり得るはずがない。ないんだ。

「ただでさえ不快だというのに、いざという時にわたくしを守れない無能ぶり。恨まずにいられるものですか。やっとわたくしがイッコクを牛耳(ぎゅうじ)れる瞬間が(おとず)れようとしていたのに!」

 ウソだ。もうやめてくれ。あんなに人々を(うれ)い、慈悲(じひ)に満ちていたマリーが、人類の支配なんて企んでいたはずがない。

「全人類から(えき)を奪い、頂点に君臨(くんりん)し、他者を踏みにじる。わたくしの悲願は達成される目前だった。だというのにお前が無能なせいで。何度殺そうとも気が済まないわ!」

 ウソだ。ウソだウソだウソだ。

「ダメだよマリーちゃーん。命は一つしかないんだからー、ひと思いに殺すなんて勿体ないじゃなーい。じっくりといたぶってあげないとー。勝利確定してるんだからー」

 ヴァリーは興奮しているマリーの肩を押さえながら、邪悪な笑みを浮かべて(おぞ)ましい提案をする。

「それもそうね。わたくしが譲歩(じょうほ)するのだから、せいぜい楽しませてみせなさいよ。ヴァリー」

「キャハハ。マリーちゃんのそういう素直なところー、ヴァリーちゃん大好きだよー。じゃあ早速始めよっかー」

 二人してゾッとする視線を向けられた瞬間、身体の中が気持ち悪い熱を()びだした。

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