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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第9章 深怨のヴァリー
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570 悪夢

 みすぼらしい墓が無数に広がっているハード・ウォール墓地で、ボクはエリスとアクアの血で滴《したた》っていた剣を(さや)に収めた。

 黄昏(たそがれ)に染まって横たわる二人の身体が、赤い水溜まりを広げている。

「墓を、二つ増やさないといけないね」

 すまないエフィー。けどマリーを守る為に戦っていたボクに矢を放ったんだ。仲間ならアクアを説得するなりして止めるべきなのに。仕方がなかったとはいえ、惜しい事をしたよ。

 アクアだってそうだ。どうしてマリーに矛先を向けたりしたんだ。国を担う姫というだけで、ただのか弱い女性だというのに。

 確かに気に食わないところはたくさんあったけれども、殺したいほどアクアが憎かったわけじゃないんだ。どうして、マリーを受け入れてくれなかったんだ。

 鼻をツンとさせる臭いが立ち込める。髪を揺らす微風が吹いた程度では、吹き飛んでなどくれない。

 って、そうだよな。思い切り返り血を浴びてしまってるんだ。この臭いは仲間を手にかけた(いまし)めだろう。

「ジャス様」

 遠くから(いたわ)しげな声で呼ばれる。マリーの眉がツラそうに(しか)められてた。あぁ、心配させてしまったか。

 歩いてマリーの(そば)まで近付くと、ボクの胸に飛び込んできた。

「マリー」

 抱き締めると、細い方が小さく震えていた。よっぽど怖かったんだろう。

「すみません。ジャス様。お身体は大丈夫ですか」

 マリーは身体を離すと、気遣わしげな上目遣いで聞いてきた。

「ボクは無傷だよ。返り血を浴びちゃってるから血まみれだけどね」

「よかった。けど、わたくしのせいでお辛い思いをさせてしまいましたわ」

 微笑みながら安堵したのも束の間、マリーが横たわるアクア達を伏し目がちに見やる。

 マリーの視線に誘導されるように振り返って眺める。

「彼女たちは大切な仲間だったよ。きみの事を受け入れくれてたらもっと手を……えっ?」

 背中から鋭い衝撃が突き刺さる。見下ろすと、ボクの腹から短剣が延びていた。

「ごくろうさま。コレでお前も用なしですわ。さっさとくたばって下さいまし」

 誰の声だ、コレは。

 棘のある聞き慣れた声を全力で拒絶する。腹から短剣を抜かれると同時に、背中から突き飛ばされる。

 地面に転がりながら見上げるマリーが、地の底よりも冷たい眼差しでボクを見下していた。

「うっ、ウソだ。何かの間違いだろ。そうじゃないなら、夢か何かだ」

 身体中に痛みが響く。身体が熱を帯びて、汗が止まらない。

滑稽(こっけい)でしてね。(まつりごと)のまの字も知らないバカだって事は知っていましたが、現実を見れないほど(おろ)かだったなんて。死んでから初めて知りましたわ。クソほどの役にも立たない知識でしてけど」

「なっ」

 驚愕(きょうがく)のあまり声も出ない。目の前にいるこの女は誰なんだ。マリーがこんな口汚く慈悲のない事を言うはずない。言うはずないんだ。

 何もできずに見上げていると、拍手と共に足音が近付いてきた。

「キャハハハハっ。ちょーウケるー。ほんとマリーちゃん演技派だねー。もー完璧だよー」

 拍手の主は、マリーに背中から滅多刺(めったざ)しにされて息絶えたはずの、魔王ヴァリーだった。

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